* 2話

 夕方。寮の自室で夢叶と由姫は同じソファに腰を掛けて、由姫は夢叶を宥めていた。
「夢叶〜元気だしなよ」
「じゃあ由姫ぃ、次の試験、ギターパートで一緒にでてぇ!!」
「……それは無理よ。あんたの時間帯は先輩のアンプとかの準備とかしなきゃいけないからさ」
「うー…」
「しかも、今度のベース試験、ソロのやつじゃない。ムリムリ」
 傷口に塩を多量にまかれているくらい、夢叶は白目をむいていた。由姫は、そのまま後ずさりし、ベッドに飛び込んだ。
「…私が悪かった?ベース勧めたの」
 何も考えていないが、すう、と口から出てきた言葉だった。夢叶は、キョトンとして由姫を見る。
「私がギターを小さいころからやっていて、夢叶と仲良くなって、夢叶にギターを触らせて、『いつか一緒にバンドを組もう。私がギター、夢叶がベースでね』って勧めたのがおかしかった?」
 夢叶に返答の言葉を言わせないよう、息が切れるくらい長く、言葉をつなげていた。
「いや、寧ろ嬉しいよ。ベースは多少値が張ったけど、その分、由姫と仲良くなれて、そして、声蘭学園に入れて…。こんなに由姫と仲良くなれるって、思ってなかったし」
「そう。安心した」
 ベッドから起き上がり、もう一度夢叶の隣に座った。
「じゃあ、試験頑張りなさい。…言っておくけど、私、BTから抜けないから」
「へ?!どうして」
「…夢叶と同じ立ち位置で居たいから」
 ふっ、と笑い、夢叶に笑顔がこぼれた。
「さってと、第5音楽室に行くか。練習よ」
「うんっ」



 第5音楽室。ベースの音とドラムスの音だけが鳴っていた。
 ベースは夢叶、ドラムスは由姫がやっている。
「テンポあんまあってないね…。ごめんね。当分ドラムやってなかったんだ」
「そなんだ…。でも、由姫にはギターがあるんだし、仕方ないよ」
「…そう」
 一瞬だけ、由姫に悲しみの表情が溢れていた。
「よし、私も練習がてら、あんたのベース聴いてあげるわ」
「本当?嬉しい」
 ピックを持って、弦を押さえた。
「…Fのコードがいまいちね。変な音が出てる」
「だって苦手なんだもん〜」
「そんなこと言ってたらBUから抜け出せないよ?」
「じゃ、教えて…?」
「はー…しゃーないな」
 夢叶は、その言葉にぱっと花が咲くように笑顔になった。
「あんたは私と同じように、ネックよりも手が大きいんだから、指曲げないようにして。曲げたら、押さえたことにならないし」
 確かに、ネックは細めで、夢叶の手の大きさには不相応だともいえる。勿論夢叶より背が高い由姫も同様だが。
「…こ、こう?」
「そうそう。第一関節はもうネックの外に出しちゃっていいから」
「で…?」
 そのあとは、隣の指の使い方。
「この2つ点があるとこって、どうやって押さえてる?」
「え?こうだけど」
 薬指で器用に2本の弦を押さえていた。そのやり方に、由姫は愕然とする。
「…えっとねー。あんた、それだから音狂うのよ」
「え?!」
「指を寝かせるようにしたら…ほら、押さえれるじゃない」
「ホントだー!なんでこんなことできなかったんだろ」
 ──この調子だったら、全部のコードが危うい。もう一度確認させよう…。





 とにかく、全部のコードの確認が終わった。躓いたのはFだけだったらしい。
「ふー。これでできるでしょ。やってみ?」
 ──元から、ちゃんとしたベースの才能の持ち主だったのに、ほんとは躓きっぱなしだったなんて。試験前に気付いてよかった気がする。
 夢叶は軽々とベースを弾いて見せた。
「…このままできたら、合格できると思うわ。頑張ってね」
「う…うんっ」
 それじゃあ帰って寝よう。1時間しか寝れないけど、そういって、夢叶たちは音楽室をでた。

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