* 7話
──また、会うのかな。
生徒会室の前で、扉を開けることができず、静止していた。何か言われるのかは分からないけれど、嫌な予感しかしなくて…。
「やっほーい♪夢叶ちゃん♪」
「?!」
振り返ると、ドラムスクラスの委員長、君島がいた。
「…なんですか。いきなりフレンドリーにしてくれても困ります」
「堅いこと言わずにー! みんなおっはよー」
「わわわわ…」
あわてて教室の中に入ることになった。
これで、「新しい彼女です!」とかと言われたら、どう反応すればいいのか…。
「あーおはよ」
「夢叶ちゃんのベースって可愛いよねー」
「は?」
「ホント。フェンダーのムスタングベース?」
「…あ、はい」
何か、遠回りされた気がする。けれど、内心ほっとした。きょろきょろ広い生徒会室を見渡して、空真を探す。
ギターの音が響き、あそこだ!と行くと…「空真さまっ」
「…お前…」
「この辺分からないんですけどー、教えてくれますか?」
「それくらい自分で分かれ。第146小節の部分かと思いきや、第86小節だったなんてな」
「うへ?」
第146小節の欄を見ると…。別に難しくもなんともない。これは基礎ができてなくて、文章題ができる中学生の方程式のようだった。
「…はー。ここがF、ここがC。わかるだろ?」
「あ、りがとうございますっ」
──よく空真さまがドSキャラから脱出したように思える。最初は怖いけれど、ちゃんと教えてくれたり…。ツンデレでデレたとき?
少し、鼓動が高鳴った。
「…っっ」
恥ずかしくなった。顔が紅潮してる。
手を口に当てて、下を向いた。
「どうした」
「べ、つに…何もないです。だから気にしないでください」
作り笑い。
──本当は、自分の気持ちに気づいてなかったから。これもただの風邪だと思った。季節の変わり目だ。風邪をひくだろう。そろそろ冬物の制服を出すか。
そう言い聞かせて、ベースを手に取った。
「その弦、錆びてきてるぞ。メンテは?」
言われてやっと気付いたが、よく触れていない部分が錆びている。ほおっておくだけで、こんなに錆びるものだったのか。
「まだしてないんです。でも私、できるようになりましたし」
「…でも、弦があってない。張り方がおかしいから音も狂う。楽器屋でメンテしろ」
本当だ。こちらも言われて気付いたが、弦の張り方がそれぞれ全く違う。だから、高い音が出たり低い音が出たりしたのか。…これでよく試験に合格できたな、と思わせる。
「じゃあ、練習しよう」
「ワン・ツー・スリー・フォー」
部屋に戻ると、何やら宅配が届いたようだった。中身を開けると、新しい服とお小遣いの5万円が入っていた。服は清楚な白のワンピースで、冬に近づいていることから長袖である。黒いコートも送られていて、手紙には「このサイズで大丈夫?」と書かれていた。
「あら。夢叶の家もかー。私のとこもよ」
「へー。由姫はどんなの?」
「ギターのメンテ費用と、お小遣い。あとは冬物ね」
「そーだメンテ!メンテ費用あるかな…」
段ボールの中を探ると、もう一枚封筒があった。思った通り、メンテ費用1万円。
「よかったー。あ、由姫、明日メンテしに行こう」
「うん。いいよ。私もメンテしなきゃだし」
と、言うわけでメンテをすることになったんですが…。
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