初めましてと新しい世界
ジャラジャラと厳重に繋がれた鎖や錠を引きずりながらケースから出て来たそいつは思いの外小さい。俺達を前にしても不安や恐怖の色は見えず、どちらかと言えば人見知りのそれに近い。
「名前は姫、生まれは南の小さい村だったとしか覚えてないようです。能力はなし。雑用向けのただの人間のガキです。」
一通り説明を受け、挨拶を促すように姫の頭を抑える店主に不満の色を示す姫。反発するように顔をあげようとすれば店主から馬鹿はよせと言わんばかりにグリグリ下へ押し付けようとする。売り買いする、される同士にしては仲が良い気も不思議とする。
「まぁ挨拶はどうだっていい。連れてくぞ?」
そう一言告げればピクリと反応を見せる。その時やっと若干の不安が過ぎったのか、姫は眉尻を下げた。
店のシステムにより、錠は買い手によって解除する事になっているらしい。そうする事で、買い手に商品は完全に渡したという簡単な儀式のようなものになるようだ。それゆえ外した矢先、逃げられても自殺をされようとも返金は出来ないという、何とも分かりやすいものだった。
「手ぇ出してみろ」
「……」
ソロリと遠慮がちに出された両手は自分の半分程しかないほど細く、やはり細かい切り傷がいくつも確認出来た。白い肌にうっすら浮かぶ赤が何とも言えない。
「よろしく姫!」
そんな事を考えいつまでも腕を眺め、錠を外さずにいれば背後から脳天気な声がする。
「俺ベポね。姫は新入りだから俺の後輩ね!」
どうでもいいだろ、下らねぇと姫を見れば今までの顔とは明らかに変わり、ベポを見て目をキラキラさせている。なんだこいつは。
すると錠を外すとチラリと店主を見た姫は小走りに店主の元へ。まさか今更行きたくはないなど言い出すんじゃないかと見ていれば、手にあるのはペンに紙。紙と言っても描き散らかしたものを厳選したのか、若干多い気もするが両手にゴッソリ抱え、歩いて来た。こちらをしっかり見ようとはしないが、少し緊張しながら挨拶をしてきた。
「よ、…よろしくお願い、します」
どうやらコイツと馴れ合うには時間がかかりそうだ。
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