自覚なし

キィ…と寂しげに扉がなり、食堂へ入った。奥のキッチンからはカチャカチャと皿の擦れる音にまな板に包丁がコンコンと当たる音がして、ふと違和感を感じた。

いつもあの馬鹿コック(料理は美味い)は俺の聖地に入るなとどんなに仕事量があろうと人に手伝いを頼んだりしない。だから奥から複数人の発する音が聞こえ不思議に思った。

おかしいと思いキッチンに近付けば中からヒョコリと馬鹿コックが顔を出した。

「うお!おはようございます船長、珍しいっすね…こんな時間に起きてるなんて」

「珈琲」

注文を伝えれば了解っすと返事が帰ってきたが奥からはまだカチャカチャと音が聞こえる。キッチン内を覗けば、そこには皿を洗う姫がいた。そして目が合った。

「ぁ、おはよう、ございます」

早々にペこりと顔を下げると、また皿洗いに戻る。何時だと思ってんだ。まだ日も昇りきらない内から手伝いか…ガキならガキらしくまだ夢の中で寝てればいいものを…。

「いや船長、姫ちゃんがなんか眠れないらしくて甲板ウロウロしてたんだよ。危なっかしくて話かけたらお手伝いしたいって聞かなくてさー」

それで雑用フル活用中!俺まじ助かる!とニカッと馬鹿コックが姫を見て笑いかければ、それにつられてか姫もニヘッと緩い笑いを見せた。俺には笑うより先に顔を合わせようともしないのにな…。

嫉妬、というワードが頭を掠めたがローは即座に掻き消した。そんな笑い話になりそうな事認めてたまるかと言わんばかりに。仮に嫉妬したからどうなる、姫が俺に笑いかけてくれる訳でもない。いや…それ以前に俺は何をこのガキに望んでるんだ…嫉妬?なぜ嫉妬なんかしなきゃならない。

「はいよー船長、珈琲…って何すかその般若のごとき顔は…」

ローは考えていた。何故ベポやシャチ、こんなコックにすら仲良く話や手伝いをするのに、俺と話でもすれば、すぐ言葉は詰まるし顔もろくに上げない、笑いかけてもくれない…だから何だ…考えがまとまらない…頭が痛い。

「…………あの、もしかして船長さん…私が用意した珈琲だからあんな恐ろしい顔してるんでしょうか…やっぱり…私、船長さんと仲良しになれないかも知れません…ぅう」

「いやまっさかー、おーい船長ー!姫ちゃんが怖がってるっすよー??」

もちろんそんな声は考え込むローの耳には入って来なかった。そして原因が自分にあるのではという考えに及ぶ事もなかった。




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