困惑する頭と身体

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

どのくらい沈黙があっただろうか。いや、きっと大した時間ではないだろうが、時間が止まったような気がした。

「……なにしてんだ…シャチ」

「いっ!?え!あのっ…その、これには」

シャチは姫の背に回しかけた腕を瞬時に上に上げ解除した。後ろから入ってきた俺に姫は顔だけこちらに向けるものの、シャチの側から離れないのを見てなぜだか無意識に眉間にシワを作っていた。自分でもいつ体を動かしたのか、気付けば姫の首元を掴み後ろに引き、姫とシャチを引き離した。

姫は首が少し締まったのか咳込み、下から俺を目だけで見上げる。何か怒られたのかと勘違いをして怯えも見える。シャチは分かりやすいくらい青ざめて俺と目を合わそうともしない。ベポは少し離れて絶賛死んだフリ。

「………やるなら人目につかない所でやれ」

口から発せられた言葉は何も力はなかった。馬鹿にするように冷やかし笑いながら、もしくは忠告するように真剣な空気を纏いながら…何かしらの感情や気持ちを込めるが今はそのどちらでもなかった。呼吸と同じくらいの、ただの音にしかならなかった。

やるなら人目につかない所でやれ

そう自分の口から発したくせに、人目と言ってもこいつらしかいない食堂にも関わらず引き離しにかかった。…もしも本当に人目のない倉庫なんかで、たまたま同じ場面に遭遇しても……………同じように…引き離した、かも知れない。

どうしてだ?
そんな必要がどこにある?
共同生活への配慮?
恋仲にでもなれば面倒?

いや、どれも違う。そう装いたいだけだ。何がそうさせるのか、何が胸を締め付けるのか、ここまで気持ちが掻き乱されたのは今までない。イライラして、感情が高ぶっている気もしているのに心は沈む。

あの甲板での話をしてからか、こいつは俺と似た部分があると思ったんだ…。だから少し親近感を持ってしまっただけだ。それだけで…少し、自分の側にいてくれるものだと…勝手に考えていた。じゃあ何だ?俺は姫をどうしたい?特別な感情がある…訳じゃない。でも今まで知らなかった不思議な感情が押し寄せているのは事実だ。

整理のつかない感情に頭を支配されぼーっとしつつも、両目で捉えるのは姫の姿だった。





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