胸の奥で疼いた何か

―――私が描いた、下手くそな絵を見て、嬉しそうに…笑ってくれました

だから絵を描き続けています。そう姫は語ったのだった。ただの世間話程度に聞いたそれは、ローの心の中を揺れ動かした。

「あ…すみません、説明に…なってません…よね」

「……いや」

それは忘れかけていた感情だったのかも知れない。姫が嬉しそうに語る好きな事への内から溢れ出る感情。それは自分は何故医者になったのか…姫へと向けた質問が己に問い掛けてくるようだった。



――――お、包帯巻いてくれるのかー!ローは小さいのにそんな事してくれるなんて嬉しいなぁ!もう痛くなくなったみたいだ!ありがとうな、ロー



「……」

「……船、長さん?」

そうだ。ただ単純に、嬉しかったのだ。自分の行動で相手は笑ってくれた、褒めてくれた、ありがとうと頭を撫でてくれた。自分も姫も絵描きも医者も始まりは何ら違わないのだ。

「………同じだな、姫」

「……ぇ……?……?…?」

そんな無垢な頃の感情が押し寄せる自分に、ローは口元を少し上げ、姫を見る。姫は同じ、の意味と何故ローが笑っているのか分からず、数秒目を合わせ、答えを待っていたが、やはり照れ臭くなり、すぐ目をそらした。

たった数秒…なのに、胸が激しく脈を打つ感じがする。彼の目が、口元の小さな笑みが、突然瞳の深い部分に焼き付いたような、目をそらしても尚、見詰められているような…不思議な感覚だった。




(どうしよう………顔が、………すごく…熱い)





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