始まりは何気ない昼下がり(第三者目線)
「いらっしゃい」
ここはシャボンディ諸島。とある通りのとあるヒューマンショップだ。正直この諸島でヒューマンショップは珍しくも何ともない。海軍黙認であり何もビクビクして商売することもない。
しかし今日ばかりは勝手が違った。こんな大してデカイ店でもなければ、取り立てて商品の質が良いわけでもない。それにも関わらず訪れた客がデカすぎる。
「ぃ、いらっしゃいませ、ユースタス様」
俺の声が聞こえていたか、いないかズカズカと長い足を振り、店内の商品、もちろんヒューマンショップであるため鎖に繋ぎ、ケースに入れられた女、巨人、或いは運悪く捕まる同業者の海賊船長なんかを一通り見て回る。
「気に入った人間がいましたら、是非ともお持ち帰りを」
億超えルーキーに商売する度胸はない。それどころか店が、俺自身が無事でいられるなら、と出来るだけ癇に障らないよう告げた。もちろん返事はないが。
すると彼は隅のケースで足を止め、暫し眺めた後なにもなかったように店を出て行った。
(……おっかねぇなぁ…)
―――2、3時間後―――
「いらっしゃ…」
厄日だと思った。ぞろぞろと足音がしたので顔を向ければ、またも億超えルーキーの姿である。余りに不意をつかれ言葉を失った。ユースタス・キッドやトラファルガー・ローがヒューマンショップを回っている…とすれば誰か探しているのだろうか。
「これはトラファルガー様、気に入った人間がいればお持ち帰り下さい」
ニコ、と出来る限りの笑顔で取り繕う。内心出来る事なら店から飛び出したい。…そんな事を考えていればトラファルガー・ローの足が止まる。
(………まただ…)
そう、足が止まったのはまさしく先程のユースタス・キッドと同じ隅のケースの場所だ。
「コイツにする」
「えっ」
驚いたのは俺だけではなかった。回りのクルーまでもがざわついたのは誰でも分かる程だった。
「しかしトラファルガー様、コイツは何の能力も特技もないただのガキです!貴方ほど船においた所で雑用としても役に立つかどうか…」
「話が違うんじゃねぇおい?」
ハッとした。そうだ。気に入った人間がいれば渡すと初めに自分から言ったのだ。役に立たなければアイツも、アイツを商品として渡した俺も殺されるかも知れない。しかしそれより先に自分の交わした約束を守らないこっちが殺されるような気がした。
「いえ、ではお持ち帰りの準備を」
こうして悪夢のような時間が早く終わる事を祈るように商品を急ぎ渡すのであった。
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