潜水時間は長く短い
潜るぞー!中に入れー!と声がする。あの後船内に入った姫やベポは揃ってレクリエーションルームに来ていた。特別設備が良いわけではないが、潜水中の時間に何か暇潰しになるようにと、体を鍛える道具や簡単な遊び道具がある。
「姫ここは初めてだよね!暇な時はいつでもここで遊んでいいよ!」
「わー、はい!ベポくん達は…今から何を?」
「今からジャンバールと一勝負」
えい!とベポはダーツの素振りをしてみせた。なるほどダーツか!私したことないです、と言うと教えよっか?と海賊さん達が集まり始めた。
「体力測定が先だ」
その紛れも無く姫の苦手な声色に一瞬で体が固まり、ひぃ!と身を竦めた。周りの海賊さんたちも、その声に測定への興味本位の応援をかけてくる。
「体力はなさそうだな」
「ぶはは、まぁ頑張れよー」
「腹筋くらい出来るよなー姫ちゃん」
若干馬鹿にされてるようでムッとしながら体力測定を発案した船長さんのいる場所まで重い足を引きずる。
「………あ、の」
「………思い切り握れ」
渡されたのはただの握力計。海賊さん達を見返すんだと思い切り力を込めた。
「――っ!!」
「………ん、まずまずか」
思っていたより結果は良かったらしい。次はこっちだと指で示されたのはランニングマシン。一番速度の緩いものから徐々に上げていく。そう言われ走り出し数分。
「っは…はぁ…ふ……も、無理っ!……です!」
速度を上げていくまでもなくゼェハァと息を切らし姫はリタイア。海賊さん達もランニングマシンに瞬殺された姫に笑いを堪え見守る。
「次」
(いくつ測定するんだろ…はぁ)
正直今のランニングでヘトヘトだが船長さんに逆らえるはずもなく…見れば小さなマットがあり、仰向けとだけ指示された。…これはもしや
「姫!腹筋頑張ってね!おれ足押さえるから!」
「………はい…」
腹筋出来るのは意外と海では重要だからね!肺活量やら腹式呼吸やら説明されていたが全く聞こえなかった…そして自信もなかった。お腹ブニブニ、ケースの中じゃ好きに寝て、お絵かきしてただけだったし。でもまぁやるしかないと決め、海賊さん達の掛け声と共に上体を起こす。
「っ!」
「おー!頑張れー!15!」
私の年代の腹筋平均は何回なんだ…私としては頑張った方じゃないだろうか…。目の前で足を持つベポくんが可愛くファイト!姫!なんて応援してくれるから頑張ってはいるが
「おー21ーっ!」
ああもう限界お腹がプルプル震え始めた。腹筋がんばれ!30…いやせめて25くらいは…と粘ってみるが上体がベポへと近付いてくれない。
「っ…ぅあ!んっ〜ぅ…ぁ…ベポ、く…もぅ…無っ理、…出来な、い…!」
はっ、はっ、と小刻みに息を整えれば、何やら海賊さん達が口を開けフリーズしてる。
「姫惜しかったね!もう少しで25回いけたのに!」
「ですよね!また記録伸ばせるように頑張ってみます!」
体育会系ではないが、近いノリでベポくんと話をすれば、ダンッ!!と船長さんが突然足を鳴らしビックリし、そちらに目をやれば海賊さん達に船長さんは顔を向け浮上準備をしろと命じた。それに肩をビクリと動かし海賊さん達はバタバタと急ぎ部屋から出ていった。
「…?」
「………測定はもうやめだ。あと、二度と腹筋なんかすんな、命令だ…いいな?」
「ぇ、……はい…?」
(腹筋禁止命令が出ちゃいました…ベポくん)
(なんかさっきのえらく…生々しかったな…)
(ただの腹筋なんだけどな…)
(ああ…なんつーか、あの声は反則だな)
(そして船長の瞳孔開いた殺気に満ちた目で一気に冷めた)
(((うん…ほんとな…)))
[ 14/22 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]