楽しいひとときの後に
結局色んな海賊さん達に勧められるままにお酒を飲んだり、調子に乗って飲み比べしてたシャチさんが泥酔してベポくんに連れられて退場したりと結構みんな騒ぎ疲れてチラホラと寝息が聞こえ始めた。
ベポくんやシャチさんがいたからさっきまですごく楽しかったし、周りもガヤガヤ踊ったり、歌ったりしてて面白かったけど、今こうしているとすごく寂しい…と同時にすごい緊張もしている。横には船長さんがまだ座り、飲んでいるからだ。
「…………」
「………っ」
無言や沈黙がよっぽど嫌いな訳ではないが、一体この状況をどうしていいのか分からない。話かける話題もなければ、今更だが船長さんに気軽に話かけていいものなのかすら分からず、ただ少なくなっていくグラスの中身を見ているしかなかった…。
そしてお酒が入ったせいか、だんだん眠くなる。隣のテーブルで気持ち良さそうに寝息を立てる海賊さんが心底羨ましい。眠い…しかし忘れてはいけないのだ。私は雑用…兼、一応画家。みんな出払ったら、ここの掃除とかしなきゃだろうし、寝ちゃダメだと軽く目を擦る。
「…眠くなったか?」
「…っ!!」
眠くて頭がボーッとしていたせいで、ビクッと肩を揺らしたものの返事を返し損ねた。ああ、何か言い返さないと、と思いながら一瞬開いた間がなんかもう話聞いてなかったみたいで返事しにくい。
「眠いなら寝ていい。空いてる部屋を案内させる。」
ペンギン、と呼べば目の前に目深に帽子を被った海賊さんが了解と言った感じに片手をヒラヒラさせた。
「…………」
「ほら、おいで」
おいで、なんて…犬かなんかですかとか考えながら、この食堂の片付けは?私に部屋があるの?と考えていれば、顔に出てたのか船長さんが
「片付けは寝てるこいつらにやらせる。部屋っつっても予備の貯蔵庫空けただけだ」
あんまり深く考えなくていい。と言ってくれたが、雑用なら片付け終わらせてから適当にその辺で寝ろとか言われるだろうと勝手に思っていたので驚いたが、顎でさっさと行けと言われ、小さく頭を下げて、食堂を後にした。
「気分は悪くないか?」
「ぁ、はい…」
しこたま飲んでた気がしたが酒に強いんだな、と…ペンギン、さん?
「あの…さっき、ペンギン…って」
「俺の名前だ。ペンギン。よろしくな姫」
厄介な船長に捕まったなと微笑するペンギンさん。厄介な?どちらかと言えば海賊らしからぬいい人にしか見えないと言えば、声を出して笑った。
「ここを好きに使ってくれ。最低限の物ならとりあえず揃えてある。」
見ればベッドに机、椅子、隅に置かれた箱には服と書かれてある。そして壁には小さな窓。お風呂同様に海の中が見えた。
「寝るときは鍵をするんだぞ、一応な。まぁ隣は船長室だから問題ないだろうが…いや、逆か…」
何かブツブツ言うペンギンさんを驚いて振り返る。横の部屋は船長さん…?そんな馬鹿な。自分の概念では船長さんが10階に住むとすれば雑用なんて地下3階くらいに住むはずだと思っていましたが…。隣…。
船長さんはいい人なんです。ヒューマンショップから出してくれて、傷の手当やお風呂、部屋まで準備してくれた海賊なんて嘘なんじゃないかって言うくらいいい人なんです。
「おやすみ姫、明日はベポが起こしてくれるだろうから、ゆっくり休め」
「……はい」
ベポくんほどキュートではないし、シャチさんほど取っ付きやすい訳でもなく…睨まれてる感じはなくとも、目つきが威圧的でお酒の席でも笑ったり、羽目を外した姿も見ていないので、正直船長さんと気さくに話たりする日が来るのか不安です。
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