まずやるべき事
船に着いた。急ぐ用事もないが、とりあえず潜水した。シャボンディ諸島は海軍の出入りが激しい。海上に捕まえてくれと頭を出しているよりは良いと考えたからだ。
そして一段落して姫を船長室に連れてきた。軽い検診の為だ。
「舌出してみろ」
チロ、と遠慮がちに出されたそれに奥まで全部だと言えば、観念し口を大きく開けた。腫れや炎症もなし、心音も特に異常も見当たらない。あるとすれば手足の軽い切り傷程度。別に処置を施す程ではないが、あんな場所にいたのだ…軽く消毒だけする。
「健康状態には異常はないな…そしたら風呂だ」
ベポ、と呼べば扉の外で待機していたのか白クマが入って来た。
「あ、あの…」
すると今まで一言も発しようとしなかった姫がローに突然声をかけてきた。一度こちらを見たものの、目が合ったのが気恥ずかしいのか姫はすぐ視線を反らした。
「どうした」
「えっと…その、私は…この船で何をしたらいいんですか?」
おじさんに買い手が決まったらまず始めに自分のやるべき事をしっかり確認しろと言われていたのだ。そしてチラリとまたクマのある彼を見れば顎に手を当て考えこんでいる。
しまった。何も考えてなかった。あのヒューマンショップでコイツを連れてきてしまったのには余り理由がなかった。傷を作る細くか弱い手足を見て、医者としての何かが働いたのか、単に患者くらいにしか考えず…ただ綺麗に傷をなくしてやりたいと…その程度で連れ帰った。
しかしそんな理由をクルー達に知られれば反感を買うに違いない。あの店主も言っていたが料理や家事に長けているとも思えない。
「何か…特技あるか?」
「……ない、です」
「……なら好きな事は?」
「……絵…を、描くのが」
好きです。と控え目に答えた姫。そう言えばあのヒューマンショップから唯一持ち物として持って来たのは紙とペン。あの絵を見る限り画家とは到底言えないが、この船に乗るクルーに絵心を垣間見た記憶は今のところない。
「まぁ……とりあえず画家(候補)だな。あと雑用全般」
すると画家と言う言葉に驚きを見せたが、姫の口元は小さな笑みを浮かべていた。
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