着いた先に海賊船

私は長いこと売られる事も興味を示される事もなく、ただひたすら売れ筋ワーストナンバー1とおじさん(店主)に厭味を言われながらケースに入れられたままだったヒューマンショップを今日ついに出たのだった。長くいたせいか、おじさんとは随分仲良く話なんかするようになっていたので正直寂しさはあった。そして私を買った軍団はどうやら海賊のようだ。歩いて向かった先に誇らしげに独特なマークを刻んだ船が見えた。海賊船と言っても、普通に考えるような帆船には程遠いフォルムをしていた。

「俺達は潜水も出来んだぜ!海賊にしちゃぁ特殊な感じだろ?」

隣を歩いていた帽子にサングラスの彼が説明してくれた。名前もまだベポくんしか知らないのでどう反応を返していいのか分からずヘラリと笑い返すだけになってしまった。

長く人との関係(ヒューマンショップのおじさんは除く)を経っていたので、前から人見知りの傾向はあったが、正直それに拍車をかける事になった。知らない人達に知らない白クマ。知らない海賊船に知らない大海原に一人で挑まなくちゃいけないんだ。今こうして周りには買い手の海賊さん達が沢山いても、船に乗ってしまえば話かけさえしてくれないかも知れない。ましてや同じ船にいても居ないものとして扱われるかも知れない。

でも私はこの海賊さん達にあの小さなケースから出してもらえたのだ。おじさんはただ怖がってただけな気もしたけど。

あの狭い空間から出て来る事が出来た、いくらかの自由を手にしたのだと考えればいいことだ。辛いだけの航海になってもいい。あのお店の世界だけを知って死んでしまうより、過酷でも不運な毎日だったとしても色んなものを見て、感じて生きてみたい。

「落ちるなよ」

かけられた声にギュッと両手の大事な物を抱え、姫は足早に船へと乗り込んだ。




[ 6/22 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -