風丸と春奈
※アンケ6位
今、イナズマキャラバンの中で怪談中なんだぜ
一人一つの物語をしなければならなくなってしまったんだが、息抜きにはちょうどいい。
エイリアとの戦いで緊張している神経をほぐすにはうてつけだ。
「〜〜で、髪の長い女が〜〜〜〜だったんだって!」
ついさっき塔子の話が終わった。
終わった後に数名の悲鳴が聞こえた。
ったく、ガキじゃないんだから、と思っていたが実際は俺も少し悲鳴をあげてしまった。
そして、俺の隣の音無もかわいらしい悲鳴を上げていた。
俺は音無に数センチ近づいて、いつでも俺に抱きついていいんだぜ、って雰囲気をかもし出しているが、音無はその場から固まってしまっていて動かない。
これじゃあ音無とお近づきにはなれないじゃないかと心の中で舌打ちしたとき、次のヤツが話しだした。
あ、鬼道か。
「お、お兄ちゃん」
音無がどんな反応をしているのか気になって顔をのぞいた。
その時、ぴったりと目があった。
「風丸さん?」
心臓がヒヤリとした。
でも、こういうときこそ冷静に。
「あ、あはは。鬼道がこういう話するって想像できないよな」
音無は表情をゆるませた。
「ふふっ。私もです」
音無もそう言ってるんだから、鬼道の怪談はそんなに怖くないんだろうなーって思って油断したのが悪かった。
(……死ねる…。怖すぎ笑えない…)
想像以上に恐ろしい話だった。
「…お兄ちゃんったら……」
音無は心なしか少し嬉しそうに見えた。
「なんで嬉しそうなんだ?」
「えっ、そう見えますか?」
「うん」
「…意外な一面が見れたから、ですかね」
「意外な一面?」
「ほら、お兄ちゃんっていっつも堅苦しいじゃないですかー」
まあそうだな。
腕を組んで考え事ばっかりしている鬼道の姿が浮かんだ。
「だから、こういう話は嫌いかと思っていたんですよ」
なるほどな。
兄妹でも知らないことってあるんだな、って思ったけどそれは当たり前だとすぐに気づいた。
音無と鬼道は再会してからまだ日にちがたっていないんだし、知らないことばかりのはずだからしょうがないんだ。
少しずつ互いのことを知っていく兄妹を見ていると、恋人にみえてこなくもない。
音無の鬼道に対する反応はまるで好きな人に対するもののように思えてきた。顔をほんのりと赤らめ、恥ずかしそうに話しかける姿。初々しいけど……。
次のヤツの怪談が始まった。
音無は先ほどのような表情は見せず、少し硬かった。
俺は怪談なんか聞かずに音無の顔ばかり見ていた。
音無が俺のことは全然気にしていないのに腹が立って、俺は音無の白く小さい手をつかんだ。
「かっ風丸さん?」
音無が驚いてこちらを振り向いたが、とっさに目を閉じて寝たフリをした。
その後、音無が俺のことをじっと見ていたのか、それとも気にせずずっと怪談を聞いていたのかは分からない。
でも、少しでも俺のことを気にかけてくれればそれでよかった。
怪談が終わる頃には音無の冷たい手は少し温まっていた。