太陽と冬花
「どうしてすねてるの?」
太陽はそっぽを向いてすねてませーんとやる気のない返事をし、冬花から体温計をとって口に加えた。その際も太陽は冬花と向き合おうとしなかった。
冬花は太陽のその態度に少しだけ悲しんだ。まるで自分の弟のように可愛がっていた子が、自分とは面と向かって話したりしなくなったし言うこともあまり素直に聞かなくなった。そして自分のすることや言うことに苛立っていてそれが冬花を傷つけていた。
「......じゃあこれで終わりね」
「ん...」
冬花は体温をメモして体温計をケースにしまう。病室から出ていく冬花は一度も振り返らず、太陽はそれを横目にみて肩を落とした。
冬花さんの担当は俺なのに同じ階の剣城さんと仲良く話とかするなよ、と太陽はぎゅっとベットのシーツを握りしめた。ある日、冬花と優一が笑いながら話し合っているのを太陽は見てしまい、もしかしたら二人は付き合っているのではないかと考え込んでいた。二人はそれほど年齢に差はないからおかしい話ではなかったが太陽はくやしく思った。
その日の夜、太陽はなんとなく寝付けなくてぼんやりと見える外の光を眺めていた。外は冷えてそうだな、と太陽は思ったが病室をこっそりと抜け出しベランダへ行こうとした。でもベランダのドアには鍵がついている。
太陽はがっかりして病室に戻るとそこには冬花が太陽のベッドを慌ただしく触っていた。
「冬花さん?」
「太陽くん!どこに行ってたの」
冬花は太陽の両肩に手を軽くのせて、勝手にいなくなっちゃダメでしょ、と説教をした。太陽にとってその言葉は耳にタコができてしまうんじゃないかというほど聞かされていたから半分は聞き流していた。
最後に冬花は太陽の体をふわりと抱き寄せ、心配したんだからね、と言った。太陽は少しだけ間を開けてからうんと唇を動かした。それが冬花に聞こえたのかは分からないが冬花は太陽を抱いていた腕をはなし、おやすみ、と言い病室を出た。
(......)
太陽はベットの中に入ったが、やはり眠れなかった。
次の朝、太陽は気付いたら寝ていて冬花に声をかけられてようやくおきた。ゆっくりと身体を起こして目をこする頃には太陽は昨日冬花に言われたことを思い出した。
――心配したんだからね、か。
太陽は冬花から体温計を受け取り、口にくわえる。昨日より機嫌のいい太陽を見て冬花はほっとした。
「ねえ冬花さん」
「なぁに?」
「もし俺がいなくなったらどうする?」
「もちろん探すわよ」
「いなくなったら心配する?」
「ええ、もちろん」
なら良いんです、と目を少し細めて微笑む。それなら俺は満足です、はい、と太陽は付け加えた。冬花は今日もまた探さなきゃいけないのかなぁと呆れた。