虎丸と春奈

※アンケ8位






二年棟を練り歩いて目的の人を探していた。
一年生の俺が二年生しかいないところにいるっているのは緊張するし、いつなにされるか分からないから警戒しないといけない。

俺の探している人を簡単に言えば、鈍感。
他人のことについては部内一を争うくらい鋭いくせに自分のこととなると全然気づかない人なんだ。

教室をのぞきまわっても見当たらない。
教室以外に、図書館とか保健室とかも見たけどいなかった。
あと、見ていないところって言えばどこだろう。

俺が途方に暮れていたとき、ある会話が耳に入った。それは偶然であったけど、俺にとってとても都合の良い会話でまるで俺のために用意されているゲームのようなものであった。

「あの二組の○○が、屋上で告白だってさ」
「え、マジ?あのモテモテ野郎が告るっつーことはかなりの美少女なんだろうな」
「うん、サッカー部の音無さんだって」
「マジかよ!春奈ちゃんっつったら二年のアイドルだろ?ざけんなあんにゃろー!」
「お前狙ってたの?」
「当たり前だろ!あんな良い子どこ探してもいないって」
「そうか。でも、残念だったな」
「どうして」
「だって、音無さん、好きな人いるみたいだし」

この会話で重要なのは二組の○○さんとか、俺の先輩を狙っている人のこととかじゃなくて、先輩に好きな人がいるっていうことだ。
俺は自分が先輩に告白されているところを思わず妄想してしまった。虎丸くんが好きなの、俺もです、じゃあ付き合おうね、はい!と、そこではっとして目が覚めた。

もしかしたら先輩が好きな人は俺じゃなくてあの告白するというモテモテ野郎なのではないだろうかという疑惑が浮上した。
ありえない話ではない。イケメンと美少女のコンビは誰が見てもおかしくはないから。

そう思うと黙ってはいられなくて、理事長室まで階段をかけあがり、そして屋上へ向かった。その途中何度もつまづいて転びそうになった。
屋上にはあの人たちが話していた通り、音無先輩とモテモテさん(仮)がいた。
うん、たしかにモテモテさん(仮)はイケメンだった。

ヒヤヒヤしながらその様子を見守っていたけど、音無先輩があの人のことは好きじゃないって分かった。
相手の申し出をキッパリと断ったのだ。

心臓がドキドキ動いているのが分かって、今にも口から飛び出しそうだった。
音無先輩が「他に好きな人がいるんです」と言ったのを俺はちゃんと聞いた。
安心したけど、その好きな人ってのが俺だとは限らない。

目の前がちかちかするのはどうしてだろう。相手が屋上からいなくなるのは見えたのに、音無先輩がどうしたのかは分からなかった。
俺はふらふらする足を動かしてその場から離れようとしたとき、音無先輩がまだ屋上にいることに気づいて、その場に音をたてないようにして座った。

音無先輩は屋上からグラウンドを見ていた。もちろんサッカー部専用の。
その横顔はうつろでさびそうだと思った。
そして口を少しだけあけて、ため息をついていた。

(…なるほどね)
俺はその先輩の動作で、サッカー部に好きな人がいるっていうのが分かった。
いなかったらあんな顔しない。
ため息をついていたのはどうしてだろうか、他のマネージャーとでも仲良くしていたのだろうか、それとも、そのグラウンドにいなかったのだろうか。

そんな事を考えていても先輩の好きな人は変わらない。
音無先輩の髪の毛が風にゆっくりと舞っている。ふわふわとしている髪の毛がなびきとても綺麗だ。
何を考えているのだろう、その瞳の先には誰がいるのだろう、どうして悲しそうな顔をしているのだろう

もし先輩が他の人を見てても、俺は先輩のこと、……ずっと好きです。







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