m-01
三年生になったばかりの私は、新しく出来た友達と連絡先を交換しようと、メッセージアプリを開いた。そして、友だち追加タブを開き、友達のQRコードを読み取ろうとした。その時、初めて気付いた。
「知り合いかも…?」
よくあるSNSの機能で、共通の友達と繋がっていたり、何らかの基準で知り合いかもしれないと判断されるユーザが表示されることがある。そういうものは大体、身に覚えがなく、誰だか分からないものだ。
私は帰宅後、知り合いかもしれないというアカウントの一覧を見た。やはり、どれを見ても誰だか分からない。だけど、その中の一つだけ、気になる名前があった。
「山神…」
この名前は恐らく、同じ学年の東堂くんだ。人気者なので、同じ学年で彼を知らない人はいない。だけど、東堂くんとは一度も同じクラスになったこともないし、私のアドレス帳に番号が入っているわけでもない。
関連ユーザとして表示される人は、ごく限定される。一つ目は、私を電話帳に登録している人で、かつ友だち自動追加にチェックが入っている人。二つ目は、ID検索で私を見つけて友だちに追加してきた人。三つ目は、参加しているグループトークの一員の人。しかし、どれも心当たりがない。
「うーん…」
考えているうちに、何だかウトウトしてきて、徐々に私の意識は薄れていった。いつの間にか、私は寝てしまったのだ。
意識が薄れていく中で、画面を適当にいじっていたことだけは微かに記憶がある。
「うわっ…寝てた。って、え…?」
起きた時、スマホの画面を見て驚いた。出しっぱなしにしていたトーク画面が、まったく身に覚えのないものだったからだ。
それが、例えば、仲の良い友達とのやり取りだったのなら、まだ良かった。
「山神って…」
しかし、私のスマホ画面は、いつの間にか山神さんとのトーク画面になっており、山神さんからたくさんのメッセージが来ていた。
元を辿ると、私が意味深な文字を打ち込んで送信していたのだ。記憶にはないが、私が原因で間違いない。山神さんはそれに反応し、聞き返すようなメッセージを何度も送信してきていたのだった。
しかも、私がずっと画面を開きっぱなしにしていたことによって、全てのメッセージが瞬時に既読になり、相手はずっと無視されていると思っただろう。
「どうしよう…。とりあえず、謝ろう」
私は山神さんとのトーク画面に謝罪の言葉を送信した。それから、次の日。私はごく普通に登校した。下駄箱で靴を履きかえ、教室に入り、いつも通り友達に挨拶をした。
「おはよう」
「●●っ!!さっき、東堂くんが探してたよ!!」
「え、何で?」
「さあ。用件は聞いてないけど。っていうか、仲良かったっけ?」
「…いや、話したこともないけど」
もしかして、何らかの間違いではないだろうか。昨日のことにしたって、私はメッセージアプリを本名で登録していないので、正体は分からなかっただろう。そもそも、私の存在自体を知っているはずもない。
その後、山神さんからの返事はなかったので、私が自ら山神さんとのトーク画面を開くことはなかった。未読で返事がないのか、既読になっているのかは、確認していない。
教室移動の時、廊下を歩いていると、すれ違った渦中の人と目が合った。東堂くんだ。彼は私を見て、にこっと笑った。
「…」
そして、そのまま通り過ぎていった。
何だったんだろう。
用があるなら、話しかけてくるはず。
その後、移動後の教室内で、マナーモードにしていた私のスマホが震えた。通知には"山神"と表示してあった。恐る恐るトークを開いてみると、通知でチラッと見えていたメッセージの全貌が見えた。
内容はこうだった。私が寝ぼけて誤送信してしまったことを理解したということ。勘違いして送信し続けて悪かったということ。良ければこのままやり取りを続けてくれないかということ。その三つだった。
常識のある人だなと思った。やり取りの続行を断る理由は、何一つ存在しなかった。