n-05
あれは二年生の時のバレンタイン。
騒がしい日だった。
朝から女子たちは大きな紙袋やバッグを肩に下げて登校し、先生や友達にチョコレートを配っていた。私も友達から手作りのお菓子をもらったりして、この行事を楽しんでいた。
それから、昼休みになり、友達と教室でお弁当を食べている時のことだった。
「○○」
「あ、手嶋くん」
手嶋くんが、私の元にやってきた。
「今日さ、何の日か知ってっか?」
「うん。おかげで、チョコ三昧だよ」
「そうかー、良かったな」
「手嶋くんは朝からすごくもらってたよね。いいなあ、たくさんチョコもらえて」
「ありゃ、全部義理だって」
手嶋くんは気さくでモテるし、女子の友達もたくさんいる。朝から何度もチョコをもらってる現場を見たし、別のクラスの女子がわざわざ来たりもしていた。正直、うらやましい。
「○○はチョコ持ってこなかったのか?」
「私はね、ホワイトデーにお返しするタイプなんだ」
「あ、そういう感じ?」
「何個もらうか分からないから、どれぐらい用意すればいいか分からないしね」
「なるほどなー」
少し話した後、手嶋くんはどこかに行ってしまった。青八木くんとお昼を食べるんだろう。
「あーあ、手嶋くんかわいそ〜」
一部始終を見ていた友達が、そう言った。
「え、何が?」
「チョコもらえると思ってたんだよ」
「手嶋くんはいっぱいもらってるから、もういいでしょ」
私がそう言うと、友達から大げさなため息を吐かれた。何だっていうんだ。
それから、帰りのホームルームが終わり、クラスが解散した時のこと。
「手嶋くん、今日の一杯はいる?」
私は手嶋くんに、そう声をかけた。
「おっ!今日もあるのか?」
手嶋くんは少し驚きつつ、ちょっと嬉しそうに言った。ないと思ってたのかな。
「あるよー。ちょっと、目つぶっててね」
「何だ?」
「いーから!」
「わかった、わかった」
手嶋くんはお手上げというようなポーズで、両手を上げながら目を閉じてくれた。
私は目をつぶっている手嶋くんの前で、水筒の飲み物を紙コップに注いだ。
「おっ、甘い匂い?…もう開けていいか?」
「いいよ!」
私は目を開けた手嶋くんに、コップを渡した。
「おっ!これは?」
「今日はバレンタインなので、チョコレートドリンクにしてみましたー!」
「そうきたか!!」
手嶋くんはすごく嬉しそうな感じのリアクションをした。そんなに好きだったのか、チョコレートドリンク。彼はすぐにコップに口をつけて、それを一口飲んだ。
「うん、うまい!甘すぎなくて、ちょうどいい。シナモンも効いてて、すげーいいな」
「ほんと?」
「もちろん!で、これって、○○からのバレンタインチョコってことでいいの?」
「じゃあ、そういうことで」
「マジかー。液体でもらったの初めてだわ」
確かに。そう言われると、バレンタインチョコを液体で渡すことなんて、まずない。
とはいえ、私は手嶋くんにバレンタインチョコをあげたことになった。
「…ってことは、お返しが?」
「あ〜、気付いたか。わかってる。そこは抜かりねえよ。期待してていいからな!」
「やったあ!楽しみにしてるね!」
そうして、二年生のバレンタインは終わった。その光景を見ていた友達からは、来年からは作ってこいと怒られた。