n-02
手嶋くんからのリクエストにより、私はその場で自分の水筒のコップに紅茶を注いだ。
「どうぞ」
そして、紅茶を手嶋くんに手渡した。
「うん、美味い!最高じゃん!!」
「良かったー」
「けど、もっと欲しかったな」
「じゃあ、明日同じの作ってくるね。元々そのつもりだったし」
「マジで!やった!約束だかんな!」
「うん」
「じゃ、気を付けて帰れよー」
手嶋くんはそう言って、私に笑顔で手を振った。それは、まさに純白の天使だった。
次の日、私は手嶋くんにあげる前の紅茶の味の最終確認をしていた。すると、クラスの男子がひょっこり私の前に現れた。
「おっ!それなに?」
「ロイヤルミルクティー」
「美味そうじゃん!一口ちょうだい!」
「いいけど、ちょっと待ってて。紙コップ持ってくるから」
「あ、いいよ!そのコップで!」
「そう?…じゃあ」
紙コップでなくてもいいと言われたので、私は自分の水筒のコップに紅茶を注ぎ、その男子に渡そうとした。その時だった。
「ん?」
肩にずっしりと、重みを感じた。
「悪ぃ。これ、オレのなんだわ」
私の耳元でそう言った。
手嶋くんが。
なんと、私の肩に乗っかっていたのは、手嶋くんの腕だった。彼が私の肩に手を回し、そう言ったのだった。
「こーら。ダメだろ、浮気しちゃ」
「え?」
「そこのお前もさ、次オレのに手ぇ出したら許さないからなー」
手嶋くんは、私のクラスの男子に軽くそう言った。そんなに私の紅茶を気に入ってくれたんだ。昨日といい、今日といい、手嶋くんの積極性に、私は今、とても感動している。
「○○ー、ちょっといいか?」
手嶋くんがにっこり、この上ない笑顔で私を手招きし、教室の外へと連れ出した。そして、私は廊下の隅っこに連れていかれた。
「なに、手嶋くん?」
「あのさ」
「うん」
「なーに、他の奴に紅茶やろうとしてるわけ?」
手嶋くんはいい顔で私を見下ろしながら、そう言った。不敵ないい顔だ。
「欲しいって言われたから。ダメだった?」
「うん。ダメ」
手嶋くんは、にっこりとそう言った。
「そっかあ」
「だってさ、毎日オレのために紅茶作って持ってきてくれてるわけだろ?」
「もちろんだよ」
「そんな可愛いことされて、他の奴に横取りされてたまるかよ」
手嶋くんは、サッと顔を陰らせながら、そう言った。いい顔だ。
「…ったく、好きそうな奴らには片っ端から釘刺しといたってのに、まだ残党が残ってやがったとはな…」
手嶋くんは私から目線を外し、小声でボソッと言った。周りにそんなに紅茶好きがいたとは。知らなかったな。
「よし。オレのものだから手を出すなっていうことを、もっと分かりやすくしよう」
「おっ、水筒に名前でも書いとく?」
「斬新なアイディアだな」
「でしょ?」
「ああ。でも、そうじゃねえんだわ」
手嶋くんは目を閉じ、少し肩を上げ、やれやれといった雰囲気を出した。
「よし、呼び方を変えるぞ」
「ん?」
「これから名前で呼び合おうぜ。オレのこと、下の名前で呼んでみ?」
「純太さん?」
「んー。ま、それもいいけど、もうちょい距離縮められね?」
「じゃあ、純太くん」
「おーけー。それでいこう」
純太くんは再び目を閉じ、すっと両手をあげ、降参のようなジェスチャーをした。仕方ないからそれで手を打つとでも言いたげな。
そんな振る舞いをしつつも、口元の緩みだけは隠しきれていない純太くんのことを、私は本当に可愛くて仕方がないと思った。