k-01
三年の秋。
鮮やかな色の夏は終わり、季節は暗くどんどん寂しくなっていった。
気温も肌寒く、気持ちも少しだけ沈んでいた。冬が来たらもうすぐ卒業だ。私は早々に物寂しさを感じていた。
「新開くん。私たち日直だから、現代文の先生が集めたノート持って来いって。教卓にあるから、半分持ってくれないかな?」
「あ、ああ…。そうだな」
まただ。また、新開くんは私のことを見てくれなかった。ずっと目を逸らされたままだ。
やっぱり、私は嫌われている。一年の時からずっとそうだ。ずっと同じクラスなのに。もう慣れたけど、やっぱり悲しい。
「危ないっ!!」
「え…?」
バサバサバサッ
耳元でとても大きな音がした。今、何が起こったんだろう。私は咄嗟に目を閉じてしまい、分からなかった。
たしか、私は新開くんに用件を伝えてから、教卓の近くに行った。その時、山積みになっていたノートが一冊落ちたので、私はそれを拾おうとして屈んだ。
気がつくと、私は教室の床に座り込んでいた。そして、私の上には誰かが覆いかぶさっていた。辺りにはノートが散らばっていた。多分、教卓の上に積んであったノートの山が崩れたんだろう。
だけど、私は何で無傷なんだろう。私のいた位置ならば、大学ノートの落下攻撃が待っていたはずだ。たくさん落ちてきたのなら、もちろん痛みがあるはずなのに。
「え…新開くんっ?!…だ、大丈夫っ!?」
私の上に覆いかぶさっていたのは新開くんだった。彼が私の代わりに落ちてきたノートを全て受けたんだ。それを理解するのに、そう時間はかからなかった。
余程痛かったのか、新開くんは目を見開いて固まってしまった。未だに私に覆いかぶさっていたけど、新開くんは少し固まった後、すぐに私の上から飛び退いた。
「…っわ、悪い!!」
「えっ!?…私の方こそ、ごめんね…!っあ、怪我は!?」
「…い、いや。大丈夫だ」
ぎこちない。どうしよう。
それから、一旦会話が途切れて、お互い慌てて必死にノートを拾い集めた。
「あの…。庇ってくれて、ありがとね」
「い、いや…。オレがそうしたかったから…な」
ノートを全て集め終わって運ぼうとした時、新開くんの手が私の手に触れてしまった。彼は反射的に過剰に手を遠ざけた。これはさすがに傷つく。私もちょっと遠ざけてしまったけど。
移動の際、新開くんはほとんどのノートを持ってくれた。やっぱり優しい。私には二割程度しか持たせてくれなかった。
それから、私たちはノートを職員室まで運ぶため、一緒に廊下を並んで歩いた。
「あのさ、新開くん…。やっぱり、お礼させて?…何か欲しいものとかある?」
「○○さん」
「うん。何?」
「○○さんが欲しい…」
「…えっ?」
聞き間違いかな。新開くんは真っ赤に染まった顔を逸らした。やっぱり、言い間違えたのかな。そうだよね。そうに決まってる。
それなのに、こんなに心拍数上がっちゃって。私って、恥ずかしい子すぎる。
「…オレと、付き合ってくれないか?」
バサバサバサッ
今度は私が持っていた数冊のノートを落としてしまった。手に力が入らなくなり、その場に立ち尽くしてしまった。
「え…あ…どっ!?」
私の発言は、ちゃんとした言葉にならなかった。だって、信じられない。新開くんが私にそんなことを言うなんて。
「一週間でいいからっ!」
「え…、え?」
「試しに一週間っ!!…オレに、チャンスをくれないかっ?!」
新開くんは私の目をしっかりと見て、そう言ってくれた。こうやって、彼と目を合わせたのは初めてかもしれない。
そして、その勢いに押され、私も新開くんから目を離せず、ゆっくりと頷いた。