彼女はいなかった



休み時間のこと。
私はまた、自席で頬杖をついていた。



「宇佐美ちゃん、素敵だったなあ…」



私はうっとり、そう言った。



「良かったな」



隣の席の荒船くんが答えた。



「どうやったら、あんなに魅力的な人になれるんだろ?」



私は荒船くんに問いかけた。



「お前もだけどな」

「宇佐美ちゃん、素敵すぎるなあ…」



私は先ほど、後輩と話している宇佐美ちゃんの包容力を見て、そう思った。



「おい。話を聞け」

「頭も良いし」

「だから、同じ学校だろ。というか、何でボーダーのオペばっか褒めてんだ?」



荒船くんが、そう聞いた。



「カッコイイじゃん。みんな、頭良くてさ。ただ学力が高いだけじゃ出来ないよ」



私の言う頭の良さはそれだ。ただ紙のテストで高得点を取るだけではない。



「オペレーターは情報処理能力の高さが必要だからな。お前もやれば出来るだろ」

「出来るかどうかは分からないけど、荒船くんのチームには、もう優秀なオペレーターがいるんでしょ」

「そうだな」

「じゃあ、同じチームになれないじゃん」



聞くところによると、ボーダーには荒船くんが隊長を務める隊があるらしい。



「俺と同じ隊がいいのか?」

「もちろん」

「それはダメだ」

「え…?」



荒船くんに拒否された。
私はまたショックを受けた。



「そんな…。私と同じ隊じゃ嫌なの?」

「そうじゃない。要は、公私混同はよくないってことだ」

「どういうこと?」

「ボーダーの隊員は仕事仲間も同然だ。仕事で衝突したら、家に帰ってもぎくしゃくするだろ」

「たしかに」



私は納得した。家に帰ってまで嫌な空気を引きずるのは、たしかに嫌だ。



「君たち、一緒に住んでるの?」



後ろから声がした。
振り返ると、金髪の男子がいた。



「そんなわけねえだろ。…って、何でお前またうちのクラスに」

「だって、まるで同棲してるかのような言い方だったからさ」



さっき荒船くんに追い払われた男子だ。



「やっほー。荒船くんの彼女ちゃん」

「え?…どこどこっ?!」



私は辺りを見渡し、荒船くんの彼女と呼ばれた人を探した。



「きみだよ、きみ」

「私?」

「うん。違うの?」



金髪の彼は、私にそう聞いた。



「え。違うけど」

「…え?」



すると、彼はきょとんとした。



「何でそう思ったの?」

「いや、だって。んー…」



彼は、少し悩んだように言葉を止めた。



「ん?」

「女の子から、よく相談されるんだよね」

「何を?」

「荒船くんには彼女がいるし、やっぱ諦めなきゃいけないのかなーって」



よく相談されるって。
この人一体、何者なんだ。



「え、そうなんだ。じゃあ、荒船くんに彼女はいなかったって、相談した女の子に早く報告してあげないと!」



私がそう言うと、金髪の彼は唖然とした。



「え…。いいの?」

「いいっていうか、それが事実じゃないの…?」



私は逆に聞き返した。



「それとも、荒船くんには彼女がいるの?」



私は荒船くんに聞いてみた。



「いないぞ」

「そうだよね」



やっぱり、そうだった。
いるのかと思って、びっくりした。



「君たち…」



金髪の彼は、なぜか私たちを見て、なんとも言えない顔をしていた。

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