Name?


信号が赤から青に変わった。向かい側の人の塊、左右の人の塊が一斉にぐらりと動く。そして、あっと思う間もなく俺の視界はたくさんの人間で埋め尽くされた。
スクランブル交差点、なんて言えば聞こえはいいが、これじゃあまるで羊の群れだ。どこを見ても人、人、人。目が回るような人混み。

そんな中、俺の視線は導かれるようにある一点に注がれた。なぜだかわからない。しかし、必然であるかのように、人混みの中でその姿だけがはっきりと見えた。


「――っ、恋華…!」


思わず叫んだその名の主はビクッとして振り返ると、俺を見つけて目を丸くした。


「、沖田君!!」






恋華は、俺が中学の時の同級生だった。もちろん、俺にとってはただの同級生というだけではない。俺の片想いの相手だ。しかし、中学にいる間は伝えられることのなかった想いである。

「懐かしー」適当に入った喫茶店で恋華は笑った。


「だって、中学の卒業式で会ったのが最後だもんね!」

「恋華は今、どうしてるんでさァ」

「最寄りの駅から五つ離れた共学に通ってるよ。沖田君は地元の高校だっけ?」

「あァ。…その、お前、彼氏とかは?」

「 実はね、」


恋華は照れたように上目遣いになって言った。


「昨日、告白されちゃった」

「…返事は?」

「残念ながら、丁重にお断りしました。中学からずっと好きだった人がいて、今でもその人が忘れられないんですって言って」


妙にふざけた口調の恋華の言葉は、俺の心にも突き刺さる。

中学から好きだった奴って…一体誰だ?俺の知ってる男だろうか。


「ね、私がその男の子と付き合うことにしなくて、ほっとした?それとも、別に沖田君には私のことなんて関係ない?」


そりゃ、もちろん安心した。コイツが他の野郎といるところなんざ想像したくもない。しかしそんなことを正直に言えるわけもなく、何と言おうか言葉を探す。


「私は、断って良かったと思ってるよ。その男の子を意識したことがなかったっていうのはもちろんなんだけど、」
「中学からずっと好きだったって人に、今日奇跡みたいに会えたんだもん」

はっとして恋華の顔を見る。頬がほんのり赤く染まっていた。


「もし昨日ノリでオーケーしちゃってたら、今日きっと後悔してたよね?」

「……恋華」


思わず、テーブル越しに体を伸ばして恋華を抱きしめた。ガタンと大きな音がしたのも、水の入ったコップが倒れたのも、今は気にならない。


「俺も、中学からずっと好きだった奴とさっき会ったところでさァ。卒業して別々の高校行ってからも、そいつのことがずっと忘れられなかった」


こわばっていた恋華の体がふっと柔らかくなる。


「好きでさァ、恋華」


恋華は小さく頷くと、「私も」と囁くように言った。



スクランブル交差点の奇跡
(神様が本当にいたとして、あの時君と僕を出会わせたのは、きっとその神様なんだろう。)



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