変なとこ頑固なのに、チキンで、いざというときに尻込みするタイプ。私の知っている日向は、とにかくそういう人だった。

(あっれえ……?)

久しぶりに見た彼のバスケは、私にとってなんとも言えない強烈な違和感を叩きつける。……日向ってあんなタイプだっけ。いや、少なくとも試合中に後輩に「ひれ伏せ!」だなんて言うタイプじゃあ、なかった、と、思う。あまりの変わり様に自信が無くなってきた。本当はああいう人だったのかもしれない。ばすっと気持ち良い音を立ててリングをくぐったボールを見ていると、へあーと変な声が口から漏れた。

なんというクラッチシューター。主将と聞いたときは目を剥いたが、成る程、こういうことか。

体育館の空気を割くようなブザーが鳴って、試合が終わる。私たちの通う高校の男子バスケ部は、1、2年しかいない新設チームにあっさり負けた。つまるところが、惨敗である。コートの中央に集まって挨拶をして、ばらばらとそれぞれのベンチに戻っていく。監督たちはまだ話しているようだ。
一度舞台裏に入って階段を降り、誠凛高校の皆さんのところへ向かった。本当なら自分の高校のチームの方へ行くべきなんだろうけど、まあ久々の再会なのだから許してほしい。

「日向ー、伊月ー」

「あれ、名前」

「は? 名前?」

名前? 名前? 名前って誰だ? という声が上がる。やだな恥ずかしい。照れ笑いしながら久しぶりーと手を振る。伊月は笑顔で返してくれたけど、日向は未だにびっくりしているようだった。

「おま、見てたのかよ!」

「えっダメだったの?」

「ダメとは言わねーけどよ……なんか言っとけよ」

「あの、先輩」

赤毛が混じったでっかい男の子が日向に「誰? ……っすか?」と聞いた。……敬語、苦手なのかなあ。

「あー、幼なじみだよただの」

「中学が一緒だったんだよ」

伊月が懐かしそうに目を細めながらよしよしと頭を撫でてきた。相変わらずの爽やかイケメンだ。ただこの子供扱いはちょっと解せない。む、と顔をしかめると、くすくす笑われた。くそー。

「日向、バスケ辞めたと思ってたのにな」

「……まあ、な。いろいろあったんだよ」

「ふうん」

いろいろ。いろいろかあ。本当にいろいろあったんだろうな。日向は中学の頃とは変わっていた。身長も、バスケも、声も。

「カントクー、ちょっとこいつと話してくるわー」

「あら、日向ったら」

いいわよー行ってらっしゃい。日向がリコをカントクーって呼んでるのが不思議で、目を白黒させた。監督やってるっていうのはリコ自身からメールで聞いていたけど、やっぱり実際に目の当たりにすると違和感が拭えない。先日メールしたとは言え、リコとも会うのは久しぶりなのだ。よくわからない感慨に耽りながら、日向に腕を引かれて慌てて着いていく。

「ちょっと、日向」

「……見に来るなら言っとけ、ダァホ」

「う、うん」

ごめん、と謝りながら、久々に聞いた口癖にちょっと頬が緩むのを抑えきれない。こういうところは変わってないんだな。
引かれるままに体育館を出て、小さな階段になっているところに2人で並んで座った。すっかり見慣れた自校の校庭なのに、隣に日向がいるのが不思議で、なんだかむず痒い。

「日向、バスケ上手くなってたね」

「2年経って上達してなかったらそれこそ問題だろが」

「あはは、そりゃそうか」

変なとこ頑固なのに、チキンで、いざというときに尻込みするタイプ。私の知っている日向は、そこにはいなかった。かっこよくなったなあ、と思ったけど、ちょっと、ほんのちょっと寂しかった。

「カントクの特訓受けたからな」

「……リコ?」

「おう」

リコが、日向をかっこよくしてるのか。なんだか無駄に納得してしまった。あの子は人を成長させる才能があるって、中学の頃、何となく思ったことがある。
ずっと横で見てきたんだなあ、きっと。

「おまえは変わんねえなあ」

「……変わったよ、私も」

日向はそうかあ? なんて言いながら少し目を細めた。日向の目には変わってないように映っているようだ。
これでも変わったのだ。きっと日向が知らないところで。身長も伸びた。嫌いな野菜も食べられるようになった。簡単な料理も出来るようになった。洋楽を聴くようになった。そうやって変わったところを列挙すると、日向はけらけら笑いながら頷いた。失礼な。

「なんだ、あるだろ、そいつをそいつとする根底の部分? みたいな」

「わかんないよ」

「わかれ」

「横暴だなあ」

私もつられてへらりと笑った。日向が突然肩にもたれかかってくる。重たい。けどあったかい。

「どしたの」

「おー」

「……やっぱり日向も変わらないよ」

「なんだよ」

ぐい、と肩を引っ張られて、日向が私の後ろに移動した。と思ったら、後ろからのしかかるように抱き締められる。だから、重い。苦笑する。幼なじみの特権はまだ生きているみたいだ。

「なあ、名前」

「ん?」

「……なんでもねえ」

「ふうん」

ほら、肝心のとこで結局怖気付くところも。ゆるりと目を閉じて、私は背中から伝わる鼓動と体温をひたすら享受した。

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -