帰国子女の美人系イケメン男子、つまり私の彼氏だが、彼は非常にモテた。
時々零れる本場仕込みの英語とか、紳士的な気遣いや仕草とか、運動が出来て特にバスケが上手いとことか、中性的で端正な顔のつくりとか、すらっとしたスタイルとか……彼の長所なんて、挙げたら限りが無い。そりゃ岡村先輩も泣くわけだ。神様のやる気配分はどうなっているんだろう。確かに、これでモテないほうがおかしい。
それにしても、彼のモテ方は凄まじい。去年のバレンタインなんて、同学年の女子の8割は彼に何かしらのプレゼントを贈ったとまことしやかに噂されていたほどだ。何度でも言おう、どうなっているんだ。
「すまない、待たせたね」
「ん、大丈夫」
そんな彼が、私のために「じゃあ行こうか」なんて手を差し出してくれるのだから、時々、騙されているんじゃないかとすら思うものだ。私はまた困ったように笑いながらその手に自分の手を重ねる。私だって、彼の隣を歩きたいと思う程度には彼のことが好きなのだ。
「最近近くに来るクレープ屋があるんだ」
「ふうん、美味しいの?」
「それは、食べてからのお楽しみ」
す、と目を細めて、人差し指を唇に添えて微笑む。つくづく妖艶という言葉が似合う人だと思う。
クレープ屋は毎週この曜日この時間にしか来ないそうで、学校帰りの生徒たちがよく立ち寄るという。「氷室くんってお腹空いたって言ったらちょっと高めのカフェに行こうかってなるイメージ」という話を小耳に挟んだことがある。確かに、彼が彼女と出掛ける機会があれば(あれば、だが)彼は迷わずそうするだろう。そして可愛いケーキをおごるに違いない。つまるところ彼は、とことん彼女に合わせるタイプなのだ。
「タツってモテるよねえ……」
思わずぼやいた。そう、実は今日私が彼を待っていた理由と言うのも、いわゆる告白のための呼び出しだった。
私のぼやきに反応してか、タツが斜め上から不意に私のほうへ視線を下ろしてきた。なんとなく私も視線を上げる。必然的に目が合う。宝石みたいな目をした人だ。
「ごめんね」
「……ん?」
少し寂しそうに眉を垂らして、突然謝罪された。なんのことだか、さっぱりわからない。ぱちぱちと瞬きする。いつの間にか、歩いていた足は運動を止めていた。
「不安だろう?」
「え、なに、が」
「そういう、他の女性からの告白だとか」
女子じゃなくて女性か。彼らしいな、と少し笑ってしまう。タツは突然笑いだした私に、不服そうな表情になった。
「Why do you laugh?」
「いや……だってタツ私と付き合ってるし、不安なんかないよ。タツなら、私のこと好きじゃなくなったら、言ってくれるでしょ」
紳士だもんね。タツは少し驚いてから、少し寂しそうな顔でそうだね、と笑った。ほら、やっぱり紳士だ。
別に困らせたくないなんて思って嘘をついているわけではない。本当に、信頼しているのだ。その信頼を確固たるものにしているのは、間違いなく彼自身。なのに、タツはちょっと目を細めて、「俺は嫉妬してるのになあ」と言い出した。……ちょっと聞き捨てならない。嫉妬してくれたのは、まあ、嬉しいけど、彼氏にそんな思いをさせるというのは如何なものか。今後気を付けたほうが良いんだろうか、と考えていると、タツのくすくすという笑い声が降ってきた。
「名前はドライだね」
「え、いや……そんなことないよ」
「あるって。……少し寂しいな」
寂しい、なんて。求めなくても、クレープも、手も、愛の言葉も、欲しいと思ったときに欲しいだけ、くれるくせに。どうしたものかと苦笑する。私の彼氏は意外と身勝手なようだ。
「タツが甘やかしすぎなんだよ」
「そうかなあ。好きな子には尽くしたいだろ?」
「ほら、そういうとこ」
「ダメかい?」
「いや、大好き」
「……そう」
嬉しそうに笑う。いつもなんでもくれるから、そう、その笑顔だけでお腹いっぱいなんです、私。そう言うとタツは、「俺は泣いて縋る名前も見たいなあ」「ちょっと待て」……なんでもくれるけど、当人は割と欲しがりらしかった。