純情メソッド
がたんがたん。今日みたいな雨の日だけ通学に使うバスは、いつも学校前の停留所に着く5分前に、大袈裟に揺れる。ケータイ画面から顔を上げて、現在地を確認してから、またすぐにケータイへ視線を戻した。

『今日、駅からおうち戻る道に
なんとにゃんこが捨てられてました!!

うちのアパート、ほんとはペットダメなんだけど
カワイソウなので拾っちゃったよ><//

ミケのおんなのこだよ〜
お名前募集中です☆』

最近中学の頃の友人に勧められて見るようになったアイドルグループのメンバーのブログ記事。テレビでよく見る女の子が小さなミケ猫を抱いてピースしている写真が載っている。コメント欄には名前を提案したり顔文字付きでかわいい〜と云ってみたりと忙しいコメントが溢れていた。よく見ると、たまーに『禁止なのに飼うなよ』というコメントが見られるが、それらのコメントは他の人たち(恐らく彼女の熱狂的なファンたちだろう)によって激しくとは言わずとも、糾弾されていた。

『捨て猫見捨てろって言うのか』『禁止でもかわいそうだから飼ってあげなきゃっていう優しさがわかんないの?』『ちいちゃんに謝れよ』などなど。

この中にあの友人もいるのかもしれないなあ、となんとなく考えたところで、ぷしゅーと気の抜けた音を出しながらバスが止まってドアが開いた。『えー、秀徳高校前、秀徳高校前ー、ご乗車ありがとうございましたぁー――』ケータイを畳んで、折り畳み傘を開きながらバスを降りる。部活動停止期間なので、いつもより荷物が軽かった。

「あ、宮地くんだ、おはよー」

「……おはようございます」

「噂の宮地くんじゃん、かーわいーっ」

いらっと来た。バスケ部に入ってからずっとこれだ。名前どころか顔すら知らない女の先輩に声を掛けられては可愛いカワイイと騒がれる。くそ、身長早く伸びねーかな。モアレ検査のときは「まだ成長期来てないんだねー」って言われたし、まだ伸びる余地はあるはず。頬にかかる先天性の金髪を指先で弄びながら、取り敢えず目標は180超えだな、と密かに決意するのだった。



「宮地くんおはよー!」

「おー」

最近やっと名前を覚えたばかりのクラスメートの女子が、まるで親友にするように挨拶をしてくる。

「ねえ、宮地くんって好きな人とかいないの?」

「ちょっと、直球すぎじゃない?」

「あんただって気になるでしょ」

「……いねえよ、別に」

「ほんと!?」

呆れながら否定すると、2人で眼を輝かせて、きゃいきゃい言いながらハイタッチをしだした。……朝のテンションとは思えない。呆れを通り越してむしろ感心さえ覚えながら席に着こうとするが、女子2人が通路を塞いでいて動けない。盛り上がっているところ悪いが、退いてもらおうと思って口を開く。
その瞬間、からんと音がして視界の端に何か転がった。

「落ちちゃった。ごめん、ちょっと退いて」

声の発信源を探して左を向く。そこの席の女子が、床を指差して苦笑いしていた。その先には、彼女のものであろう、シャーペンが転がっている。

「あ、ごめんねー名前ちゃん」

「うん、大丈夫」

女子2人がすぐに通路を退いて、教室の後ろへ移動した。……助かった。シャーペンを落とした女子が立ち上がる前にしゃがんで、黒いシャーペンを拾い上げた。「あ、」気の抜けた声が降ってくる。

「ありがとー」

「いや、こっちのセリフだろそれ」

「え、なにが?」

わざとらしく笑いながら、少し照れたように眉を下げる。やっぱり、今のは意図的なものだったのだろう。もう一度ちゃんと「ありがとな」と言ってから、席に着いた。

それが、俺と彼女のファーストコンタクトだった。
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