人の噂は75日とは言うけど、私の想いはそんな2ヶ月とちょっとで完成したものじゃなかった。ずっとずっと好きだったのに、友人と先輩の噂は75日で冷めるのかしら。そうしたら私がずっと抱いていた恋心は何処に行くんだろう。
なまえと宮地先輩が付き合い始めた。
聞き飽きた話題が、また私の隣でささめかれる。純情そうな女の子なのに、あの宮地先輩が、ただの後輩と付き合い始めたって、ついに特定の子が、どうやってあの先輩を落としたんだろう、なんて、どうでもいい。宮地先輩は私じゃなくてなまえを選んだ。何が違うか? そんなの一目瞭然だわ、猫みたいななまえが宮地先輩に興味を持って、なんだかきらきらし始めて、すごく可愛くなった。ぼーっとしてた表情が、日だまりで微睡むように柔らかく笑うようになった。人を想って泣くようになった。あんなの反則でしょ。
「みょうじ」
「あ、センパイ」
数ヶ月前には甘く私の名前を読んだ彼の声が、素っ気なく、でも優しく友人の名前を紡ぐ。そのたびに友人は、人知れず頬を緩めながらその声に応える。目の前に座っていた彼女は私に断って、宮地先輩のほうへ急いだ。そのとき少し悲しそうな顔をするのにももう慣れた。何を気遣っているのか、宮地先輩が愛したのはあんたなのに、そんな顔されたら私が救われないわ。
「みまなー、帰ろー!」
「あ、うん!」
いつものへらへらした笑顔を作り直して、鞄を持って立ち上がった。いけない、こんな気持ちになってんのばれたらまたなまえに気持ち悪いって言われるわ。らしくない、なんてね。あの子は明るくてうるさい私を信じてるんだもの、こんな陰気な私を知ったらきっと可愛い顔を歪めてごめんって言うのよ。困っちゃうわ、そんな情け要らないんだから。
私が欲しいものはあんたが一番大事なものよ、ねえ、なまえ。