「え」
「あ、」
宮地じゃん、にへら、と笑って手を振った彼女につられて、俺も手を上げた。あまりにも普通にしているもんだから、正直少し拍子抜けだ。しばらく(と言ってもほんの数日だけど)会ってなかったから何かあったのかと思ってたが、気のせいだったのだろうか。
にしても、まさかこんなところで会うとは思わなかった。彼女は本は自分では買わずに図書室で借りることが多かったから。
「何、またアイドル雑誌?」
「……わりいかよ」
「いやー、飽きないなあと思って」
みょうじが呆れたようにため息をつく。そういえばこいつ、アイドルとかの類があまり得意じゃなかったような記憶がある。
「あんたの推しメン誰だっけ? まみりん?」
おまえだよ。……って言ったらどんな顔するだろう。
「……ばか、みゆゆだっつの」
多分、微妙な表情でそういうのいいから、って言われて終わりだろうな。
「何間違えてんだ、刺すぞ」
「はいはい、今日も叶わない恋と投資お疲れ様でっす」
「あははーぶっ殺されてえのー?」
「ま、私も人のこと言えないけど」
さらり、とシリアスモードに持っていきやがったみょうじの言葉に、眉を寄せた。どういうことだよ、人のこと言えないって。ていうか、
「おまえ、……あー、そういうやつ、いんのかよ」
「……ん」
ふ、と、切なく笑いながら頷く彼女に、どうしようもない感情が沸き上がる。誰がこいつにこんな表情をさせているんだろう。ふうん、なんて知ったように頷きながら、みょうじの手を盗み見た。この手を引いて、抱き締めて、俺のものになれって言えば、あるいは。
……彼女の幸せを願っていたはずの俺は、何処に行ったんだろう。
「……、勝手に重い空気んなってんなよ、轢くぞ」
軽くみょうじの靴を蹴ると、彼女は苦笑いしながらごめんと言った。彼女が手に持った雑誌のタイトルを見てまだ少し早い恋人たちの日を思い出しながら、別にいいけどと返す。
不安定な足元に、くらくらした。