捜し回った割には、ローマ字4つで表せるほどには単純な2文字だった。
世の学生たちは、同じ文字列を言うのにこんなに苦労してるのか、と思わずにはいられなかった。今までどれだけ悩んで、どれだけ助けられて、どれだけ苦しんだんだろう。その原因と結果がこの2文字だと言うなら、昔の日本人は随分便利な言葉を作ったものだ。そんな複雑で単純過ぎる2文字に、人は悩んだり助けられたり苦しんだりする。

「……もっかい言って」

「だ、誰が言うか!」

「あー、ごめん……俺今すげー幸せだわ」

抱き締めていい? 真っ赤な顔で聞かれて、こいつは馬鹿なのか私を羞恥心で殺したいのかと割と本気で思った。声なんて出ないのでこっくんと頷く。次の瞬間、手を引かれて、落ちるようにして宮地に抱き締められた。う、わ、ち、近い。そのまま宮地が後ろに崩れ落ちるみたいに座り込む。床が冷たいけど、それがちょうどいいやってくらいには、今すごくあつい。

「っは、死にそう……」

「ちょっ、わ、わた、しも、しぬ……から」

宮地が引いた手をそのままぎゅって握って、確かめるように私の顔を覗き込む。女の子より断然綺麗な瞳に、私の顔が写ってる。

「本気?」

「本気、です……」

「いや、だからなんで敬語なんだよ」

「ねえ、私、あの、宮地の彼女になっていいんでしょうか……?」

「……むしろ、今から嫌って言われても離す気ねえけど。覚悟あんの?」

「ちょ、わっ」

また抱き締められる。髪をするする弄ばれて、耳元でなあ、って囁く。声が揺らす場所から、体温が上がっていく。

「っ、は、離さなくていいし……」

「……あ、そう。みょうじ」

宮地が呼ぶだけで、自分の名前が何か特別な言葉に聞こえる。バスケ部はエスパーしかいないのか。おずおずと顔を上げると、宮地がふはって小さく笑った。な、なんだよ。

「俺も好きだわ」

さらりと言われて、私あんなに悩んだのにずるいって少しだけ思ってしまう。それでもやっぱりこの2文字で簡単にこんなに幸せだって思えるんだから、多分、これが好きってことなんだろうなと理解したような気がした。

「……じゃ、誕生日プレゼントおまえってことで」

「はいっ!?」

抗議に口を開こうとすると、宮地の人差し指が唇に触れた。びっくりして黙り込んでしまう。宮地はいつもみたいににっこり笑って、覚悟出来た? とだけ言った。
……私いつか、この人に言葉だけで殺されるんじゃないかな、って、心底真面目に恐ろしくなった。

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