夏休み明け実力テスト
「今回のテストは実力テストだから個票は無いが、成績上位者をランキング順で階段の横の掲示板に掲示している。あそこに載ってないやつ……まあほとんどではあるが、それで自分の順位を確認したいやつは後で個別に俺のとこに聞きに来い」
 ということらしい。今回の実力テストは自信があるし、ランキングには載ってると確信していたので、俺はホームルームが終わってすぐに教室を出ようと席を立った。そこで、「ああ、宮地」「、はい」担任に呼び止められて振り返る。担任は、なんとも形容し難い、微妙な表情を浮かべたまま、「おまえ普通ならぶっちぎりで1位だよ。落ち込むなよ? ありゃあみょうじがここに入ったのが悪いんだ」……ということは。ざくりと脳みそに何か刃物でも突き立てられたような気がした。
 何も返せないまま無言で教室を出て、階段のほうへ早歩きで向かう。掲示板前には何人か生徒が群がっていて、その中に夏休みに初対面を済ませた彼女の姿もあった。最近すくすく伸び始めた身長を活かして、少し背伸びしながら自分の順位と偏差値を確認する。
 三教科合計、289点。順位は2位。3位との差は18点だ。3位のやつもそれなりに勉強したんだろう。ただ、1位との差は、言いたくもないが、圧倒的だった。
(295点、って……)
 勝てるわけねえじゃん、なんだそれ。一教科平均98越え? いくらレベルを落としたとはいえ、ここだってそこそこ頭はいいし、進学校を名乗ってもいるのだ。そんな学校の、しかも範囲の広い実力テストで、失点合計5点。って。どうなってんだよ。ていうか、そもそもなんでこの学校にいるんだよおまえ。
「なまえちゃん凄すぎない? 何この偏差値、馬鹿じゃないの」
「あはは、馬鹿だったらこんなにできないよ」
「……だろうな」
 友人と思われる女子との会話に、割って入る。みょうじは俺がいることにそこで気付いたらしく、少し肩を揺らしてからこちらを振り返った。「宮地くん」「またおまえかよ」もはやどんな表情をしていいかわからず、さっきの担任みたく、微妙な顔と声でそう言うと、みょうじは困ったような表情で少しだけ笑った。
「勝っちゃった」
「なんだそれ……」
「でも、宮地くんも凄いよ」
「……いいって、そういうの」
「いや、ほんとに。あ、ハヅキ、先に帰ってて」
 さっきまで喋っていた、ハヅキと呼ばれた友人らしき女子は、その言葉に少しだけ戸惑った様子だった。「えっと、じゃあねなまえちゃん」「ばいばーい」その子を見送るみょうじをぼんやりと眺めて、別に用事があるわけではないことを思い出す。……結構本気でショックだったし、それでもゆるい雰囲気をまとったままの彼女に、正直少し不愉快な気分になっていた。
 今日は一軍が他校との合同練習があるため、俺たちは各自自主練ということになっている。やる気を喪失した俺は、体調が悪いとでも言って練習をサボろうかどうしようか考え始めていた。
「宮地くん、あの……」
「あ? んだよ」
「ちょっとだけ、話したいなって……ここじゃ人多いから、下の空き教室とか……あっ、えっと、バスケ部忙しかったら全然構わないんだけど」
「は? ……別にいいけど、なんだよ」
「ほんと?」
 良かった、と、髪を耳にかけながら笑って、みょうじは階段のほうへ足を向ける。その動作は妙に女性的で、思春期の俺としてはなかなか悪くないんだけれど、彼女は俺と喋るとき何故かよく髪を気にするような気がした。それから、結局内容については聞かせてくれないらしかった。……よくわかんねーやつだ。

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