「そういえば、差し入れが届いてるぞ」
期待の新設校だの今大会のダークホースだの、一部で密かに騒がれている誠凛高校との試合を目前にして、うちの主将がふと思い出したようにそう言った。
差し入れは去年もたまにあったけど、今年度……というか緑間と高尾がスタメンに入ってから更に増えた気がする。と、いうか、増えた。明らかにこいつらを狙った女子からのものが多くて正直辟易していたのだが、
「生徒会かららしい」
「……は? 生徒会?」
「珍しいな」
1年生には生徒会役員はいないはずだし、御手洗だろうか。律儀なクラスメートの顔を思い出しながら、袋を受け取って、中を覗く。そこに入っていた紙袋を手に取って、包装を開けた。
「なんですかそれ?」
「……クッキーだな」
「おお、手作りっすかね! もーらいっ」
「あっ、おい!」
ひょい、と横から伸びてきた手が、中のクッキーを器用にひとつ奪っていった。振り返ったときには既にそれは高尾の口の中。「うっわ、めっちゃうまいっすよこれ!!」……怒る気も萎えて、俺もひとつそれを口に放り込んだ。
「……うめえ」
「まじで? 俺も俺も」
「緑間も食うか?」
相手が男子だということへの配慮だろう、甘さ控えめに作られたクッキーは、自然に口に馴染んだ。途端に控え室ががやがやと盛り上がり始める。……試合までまだ少し時間があるとはいえ、緊張感が無さすぎやしないか。呆れながらなんとなく差し入れのクッキーが入っていた袋に視線を戻した。
と。
(……?)
袋の底に何かが落ちているのを見付けて、再び袋の中を覗いた。小さな包装を拾い上げる。手の中でかさりと音を立てたのは、(シナモンシュガー味……って)聞いたこともない味の、飴だ。
思わず苦笑いした。そういえばあいつ、生徒会役員やってたよな。
「大坪ー、ちょっと外行ってくるわー。すぐ戻る」
「ん? おお、わかった」
主将に断りを入れて、騒がしい控え室を出た。包装を破って出てきた飴玉を口に含む。(あっま……)思わず1人呟きながら、やたらと存在を主張してくる飴の味に頬が緩むのを抑えられなかった。