がこんっと音を立てて、ボールがリングに当たる。また外した、と思った瞬間、後ろから怒号が響いた。
「何やってんだ宮地、集中しろ!」
「っわりぃ」
厳かな、威厳のある、という形容詞がよく似合う主将の叱責に、焦りを覚えた。本当に、何やってんだ俺。今までどうやって集中していたっけ? 集中しようとすればするほど、散漫を通り越して霧散していく集中力に嫌気が差してきた。ウィンターカップまであと1ヶ月半だ。今こんな状態なのはかなりまずい。息を深く吸って、吐いて、止めて、ボールをついて、リングを見て、構えて、リリース。黒い枠にぶつかったボールは、危なげなくするりとリングを通り抜けた。ふう、と呼吸を再開する。
「どうしたんすか宮地さん、調子悪いですね」
「るっせえよ沈めんぞ」
入ったというのに、なんでこいつは見抜いてしまうのか。突然声をかけてくるのにはもう慣れたが、こいつの目はいただけない。振り返りながら笑顔で拳を振りかざすと、高尾は「いやん!」と気持ち悪い声を出して身を捩った。気持ち悪い。
「つーか練習しろよ、何サボってんだ」
「えー尊敬するセンパイがお悩みみたいだからわざわざ来たのにいー」
「はっはー、生意気言ってんなよー轢くぞー?」
「いいい痛い痛い痛い!!」
縮む! と叫ぶから仕方なく手を離してやる。「大丈夫そうじゃないですか」「さっきから言ってんだろーが」高尾は頭を押さえながら苦笑いした。
「だってあの宮地さんが恋する乙女みたいな顔してるんすもん」
「……どの宮地さんだよ」
恋する乙女。そんな顔してたのかよ俺。高尾よりよっぽど気持ち悪い。げんなりしながらなんとかそう返したが、内心高尾に変なことまで見抜かれていないか少しひやひやした。
あれ以来、名字には一度も会っていない。その理由のひとつに、前期が終わり御手洗が生徒会を抜けたことがあった。名字は変わらず生徒会役員を続けているようだが、元々、学年も部活も委員会も趣味も、俺たちにはなんの共通点も繋がりも無かった。知り合いと呼べる仲にまで発展したのが、不思議なくらいだ。先月の事故も、会話したわけでも顔を合わせたわけでも無く、会ったと言うには厳しいものがある。本屋での邂逅以来、しばらくまともに会話もしていないというのが現状だ。気持ちがはっきりして、だからこそ、どうすればいいかわからなかった。今まで通りにするのが何となく難しいように感じてしまう。
会いたいような、会いたくないような。
「……ほら、その顔」
「は?」
「宮地さん、今めっちゃ恋する乙女の顔してましたよ」
「……うるせえ、吊すぞ」
脛を蹴ると、ぎゃんっとよくわからない悲鳴が上がった。取り敢えず今は目の前のことに集中しよう。ボールをくるくる回しながら、ふ、と息を吐いた。それから、あいつに会ったら、ちゃんと話をしよう。話すことはそのときわかるはずだ。ボールを手から解放する。ナイッシュー、と隣から声が上がった。