からだがあつい、ぼーっとしてる。眠いと怠いが半々くらいで、身体が全然動かない。目の前で宮地くんが私の名前を呼んでる、気がした。多分今私は寝てて、じゃあこれは夢? 宮地くんのこと考えすぎて夢にまで見てるのかな。こういうのなんていうんだっけ、覚醒夢……?

「何風邪ひいてんだ、ばーか。轢くぞ」

「あう」

ぺしぺし頬を叩かれて、目が覚めた。ゆっくりと瞬きすると、ぼんやりしていた視界が徐々に明瞭になってくる。目の前には、ベッドに横になった私に、視線を合わせるようにしゃがみこんでいる宮地くんがいる。夢? いや……夢、じゃ、なかった、のかな。
宮地くんの手が伸びてきて、私の頭をくしゃくしゃ掻き混ぜる。触れたところが少し冷たくて、それが心地いい。思わず甘えて擦り寄ると、宮地くんはいきなり拗ねたように眉を寄せて、その手で今度はでこぴんされた。

「いたい、」

「調子乗んな」

宮地くんの口がにっこりと弧を描いて、冷たい言葉を吐いた。いつもなら笑って聞き流してた気がするけど、宮地くんに無意識に甘えた身体がちょっと恥ずかしくて、私は布団を引き上げて顔を半分隠した。
宮地くんが立ち上がる。にやりと笑う私の彼氏が、1.5メートルくらい上から「風邪ってうつしたら治るんだってな」。……何それ、どういう意味。移したら轢くくせに、とか、いろいろ考えてから、熱で赤くなった顔がさらに熱くなった。

「何想像してんだよ」

「うー、ば、ばか……」

「はいはい、お粥食う?」

おかゆ。その言葉が宮地くんの口から出たことにまず少し驚いた。作ったの? と聞いたら、宮地くんから、おう、と短い返事が帰ってくる。

「あー、そういえばキッチン借りた」

「う、うん……それは、いいけど」

「なんだよ」

怪訝そうに見下ろしてくる宮地くんに、少し申し訳ない気持ちが込み上げてきた。寝起きで、身体も怠くて、身体ぐるぐるしてるし……正直、食欲が無い。そういう気持ちを込めて、「……いらない」と伝えると、宮地くんはやっぱり眉を寄せた。「あ?」あ、というか、「あ」に点を2個付けた感じの声が返ってくる。ぐ、と言葉に詰まる。作ってくれたのは嬉しい、食べたい、だけど食べられないんだわかってよ……!

「食えよ」

「無理、吐く」

「なに、口移しが良かった?」

「うん」

「はあ?」

宮地くんが驚いた様子でこちらを見下ろす。……冗談なのにな、なんて思った次の瞬間には、宮地くんは一気に顔を赤くした。

「おま、なに、ばかなの、轢くよ?」

あ、珍しい。めったに照れたりしないくせに。くすくす笑うと、宮地くんは真っ赤な顔のまま頬を引きつらせた。まじ有り得ねえ、心配して損したわ、もう来てやんねえ。ぶつぶつぼやきながら部屋を出ていってしまったけど、そんなこと言いながら、私が風邪引いたらまた来てくれるんだろうなーと考えると、思わずにやにやした。
全くもう、私の彼氏は人が良すぎるんだ。そんなとこが好きなんだけど……なんて熱に侵された脳ミソで考えた。すぐに部屋のドアが開いて、一瞬だけ、いい匂いがふわりと降ってくる。



(君と私のふたりきり)

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