手を繋ぐ。抱き締める。キスをする。その行為を疑問に思っていたのは何も私だけじゃなかったみたいで。中学に進学したばかりの春、キヨくんはキスを強請った私の口元をその大きな手で覆って、切ない色を孕んだ眼でじいっと私を見つめていた。

手についたチョコレートを舐め取って、最後のひとかけらに手を伸ばして、止めた。まだ昼休憩だ。今無くなったら多分、午後保たない。寂しい咥内を声で誤魔化そうと友人に声を掛けようとしても、課題に追われていたり他の友人と喋っていたり、何となく喋りにくい雰囲気があった。仕方なく机に顔を伏せる。
窓からの日差しは温かくて、睡魔がじわじわと体を蝕んでいった。キヨくん、今ごろ他の女の子と宜しくやってんのかな。なんて。瞼がゆっくりゆっくり重たくなる。この感覚は嫌いじゃない。
微睡みに甘んじようとしたところで、「名字さん」名前を呼ばれて、瞼と顔を上げる。声がした方に視線を向けると、面白そうな顔をしたクラスの男子がドアの外を指差しながらこちらを向いていた。「お客さん」ドアの外を見ると、ほとんど喋ったことのない隣のクラスの男子が立っていた。告白かな、いや、そんなわけないか、なんてどこか他人事のように考えながら、立ち上がってそちらに向かった。

「ごめん、呼び出して」

男子は2人きりで話さないかと提案してきた。頷くと、男子は少し顔を赤くして「空き教室があるんだ」と歩きだす。私はその後ろについていった。空き教室に入ると、男子はさっそく話を切り出してきた。

「名字さんのこと、好きなんだ」

「私が?」「うん」それで私はどうすれば良いの? 首を傾げると、男子は頬を掻きながら言葉を続けた。だから。「だから、俺と付き合ってほしい」ワガママだね。とは言わない。私はまた笑って、考えさせてと言って教室を出た。この教室はキヨくんがよく彼女と昼ご飯を食べるのに使っていたから。

「あれ、名字」

「……宮地」

教室を出るとやっぱり、彼女を連れたキヨくんと鉢合わせた。ちゃんと言われた通り苗字で呼んだのに、キヨくんは眉を寄せた。

「名字さん、どうしたの?」

「ちょっと、告白されてた」

「えっ、今!? 名字さんったら、やるじゃん」

にまにま笑いながらそう言う彼女さんの横でキヨくんは不機嫌そうだ。「誰から?」「えっと、畑中」「畑中って結構モテるよね、すごいじゃん」キヨくんのほうがモテるって、知ってるくせに。知ってる、この子は私が幼馴染だからって嫉妬してるんだ。苛立たしげに私を睨む眼が、私は嫌いだ。

「幼馴染がモテモテで清志も安心だねえ」

「あはは、保護者じゃないんだから」

「でも、気に掛けてるんでしょ?」

頷いたら機嫌悪くなるくせに、なんでそんなこと訊くんだろう。げんなりしながら私は曖昧に笑ってその場を切り抜けようとした。そのとき、そのときだった。
キヨくんが、自分の腕に絡み付いていた彼女の腕を振り払った。手を掴まれて、背中を押さえつけられる。「ちょっと、清志!?」がらがらとドアを引く音がした。畑中が出てきたんだ。それを横目で確認した瞬間、押し付けるような子供っぽい口付けをされた。

「ダメだわ、やっぱこいつ幼馴染じゃない、彼女」

「は……? 清志、何言ってんの!?」

「名字さん……?」

忘れかけていた熱が唇から侵食する。声が錯綜する中、突然の衝撃に、畑中が開けっ放しにしていたドアの内側に、倒れこむようにして再び入った。突き飛ばされた? すぐにキヨくんが入ってきて、素早くドアを閉めて、鍵を下ろしてしまう。がちゃがちゃと鍵が引っ掛かる音と、ヒステリックにキヨくんの名前を呼ぶ声が聞こえた。「清志、ねえ、どういうこと!? 返事、返事してよ、清志!!」私がキヨくん、と名前を呼ぶと、焦燥に駆られて眉を寄せるキヨくんがこちらを見下ろした。

「黙れ、轢くぞ」

熱を孕んだ冷たい眼が私を射ぬく。

「もう我慢出来ねえ」

座り込んだ私の肩を掴んで、キヨくんにまた、キスされる。制服のポケットからチョコレートの最後のひとかけらが落ちる。これももう、要らないかな。

「好きだ、なあ、いいだろ」

「私も、私も好き」

もういいよね。



(一緒じゃいられないさ)
………………
今までの行為を全部否定するのが怖くて離れた幼馴染の話 伝われ…!
確認するような言い聞かせるようなタイトルの文の響きが好きです

なぬ様、素敵な言葉をありがとうございました*

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