耐久レース開始から10分、私の精神はぶっちゃけ限界に達していた。
朝早めに来てかずくんとお喋りするのが日課になっている私は、今日もいつもどおり私たち以外誰もいない教室でふたりでお喋りに興じようとした。のだが、隣の教室で他の友人と喋っていたらしい、席が近いだけのクラスメートに呼び出されて、仕方なく離席したのだ。呼び出された教室で友人たちとの会話が始まったわけだが、最初こそかずくんと私の話題だったものの、(私を連れてきたのはその話を聞き出すためらしい)今や全く関係無い話で盛り上がっている。
かずくんとの時間を邪魔された挙げ句、友人とほとんど知らない子が喋ってるのをひたすら眺めて、ときどき相づちを打つだけの状況。もはや作業と言っても差し支えない。……帰っていいかなあ。でもとてもじゃないけど、盛り上がってるとこにそんな水を差すようなことは言い出せなくて。

「そこでさー、田中が……」

「ぎゃははっマジで! ヤバくね!?」

ヤバいですね、主に私の精神が。
作り笑いまで苦笑いになりながら適当に相づちを打っていると、突然教室のドアが引かれる音がした。がらがらがら。反射的にそちらに顔を向ける。律儀に「失礼しまーす」と言いながら教室に入ってきたのは、なんと愛しの彼だった。

「名前いねーっすか?」

「かずくん!」

自分でも声の調子が高くなるのを感じた。友人たちはにやにやしながら「行ってきなよー名前」……言われずともそうしますよー。とは言わず、ごめんねーと断りを入れてからかずくんに駆け寄った。かずくんは私を見付けて、少し安心したように笑って手を上げた。

「ごめんなー、邪魔したっぽい?」

「んーん、へいき、大丈夫」

人目も気にせず(まだそんなに人も集まってないし)ぎゅうと抱きつく。かずくんの腕が背中に回って、ぽんぽんあやすように撫でられた。かずくんのにおいだー。

「かずくんどうしたの?」

「どうしたのって、決まってんじゃん。名前が帰ってこなくてつまんねーから迎えに来ました」

「寂しかった?」

「……名前ちゃんだっておれがいなくて寂しかったっしょー」

けらけら笑った後の、拗ねたような物言いが愛しい。ちょっと笑うと、かずくんにわしゃわしゃ髪を掻き混ぜられる。かずくんも同じ気持ちだったのか。嬉しいな。友人たちの冷やかしの声が聞こえた気がしたけど、気にしない。そんなことより今はかずくんが優先。

「教室戻ろうよ」

「友達はいーの?」

「うん、いーの」

ごつごつした男の子の手を引くと、かずくんは抱きしめるのを止める代わりに優しくその手を握り返してくれる。さっきとは違って、頬が自然と緩んだ。
廊下に出ると、登校時間の10分前なのにも関わらず、ほとんど人がいなかった。来た人たちはもう教室に入ってしまっているのかもしれない。

「かずくんかずくん」

「んー? なーに名前ちゃん」

「えへへ、すきー」

「……こら、名前」

「うん?」

人目が少ないことをいいことに、かずくんの細くてしっかりした腕に抱きついてみる。少し間を開けて降ってきた、困ったような声に顔を上げると、思っていたより近くにあったかずくんの顔にびっくりして固まった。「お仕置き」「あう」にまりと笑ったかずくんにでこぴんされて、変な声が出た。い、いたい。

「なんでお仕置き!!」

「名前ちゃんがかわいすぎるお仕置き」

「ええっ!」

かずくんのぶっ飛んだ発言に顔を真っ赤にしてると、でこぴんされたとこにキスを落とされる。完全に敗北した私はぎゅうっと口を結んで、赤い顔を隠すように下を向いた。なんか、くすぐったいなあ。
かずくんの手の力が強くなる。このまま溶けて1つになっちゃうんじゃないかと思った。



(それから、パステルカラーで溶け合う)
………………
砂糖の甘さとか可愛さと、鎖に繋がれるという表現の差を活かせたらなと
甘ったるい共依存を目指しましたがどうでしょう

ゑむ様、リクエストありがとうございました!

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