声も聴いたことがない、近くで見たこともない。だとしても、シュート、ドリブル、パス、ボールを持ってないときでさえ気を抜かずにコートを、勝利を見据える姿の美しさに、私はすっかり虜なわけです。
同級生の高尾くんの声が微かにこちらまで聞こえる以外には、ほとんどの音が観客の声援で塗り込められる無口なコート。その中で、色鮮やかに玲瓏とした音を振りまきながら踊るように走る宮地先輩の姿は、どうしても他の人たちより輝いて見える。

「きゃああ高尾くーんっ!!」

「緑間くん頑張ってえーっ!!」

前から後ろから響く真っ黄色な声に思わず小さくなりながら、なんとかかんとか蜂蜜色の姿を必死に追った。シュートに踏み切った足がふわりと浮いて、またきらびやかな音を落として光る。何度も何度も見た光景なのに、甘いお菓子や大好きな音楽みたいに、また次、次が欲しくなる。意図せずに頬が緩む。なんて綺麗な人なんだろう、まだ、まだ、もっと見ていたい、そう思った矢先に。

「あの金髪の人かっこよくない?」

「思ったー、先輩でしょ?」

「イケメンだよね」

突然のその会話にどきっとする。後ろの人たちだ。多分2年生の先輩たちで、普段は高尾くんや緑間くんを応援してる人たち。宮地先輩は端整な顔してるから隠れたファンは多いらしい。私にとって宮地先輩は、憧れで大好きな人だけど、宮地先輩からしたら沢山いるギャラリーのひとりなんだなって、図々しいことを考えてちょっとへこむ。

「でも高尾くんとかと比べると地味っていうかー」

ぴたり、と時が止まった気がした。
好きな人、大好きな人の、悪口……とまではいかなくても、そういうこと、言われて。彼女でもなんでもないのに、怒りに近い感情がぐるぐる渦巻く。

「あー、わかるかも」

「凄いけど、なんかねー」

なんか、って何! って怒ってやれたらいいけど、そんな勇気私にはなくて。小さな言葉はコートまでには届かない。ばすんっと派手な音を立てて緑間くんのシュートが決まって、うるさい黄色がまた会場を揺らした。
すぐにゲームは再開されて、ボールが相手チームのゴールのほうまで運ばれる。けど、先に回っていた高尾くんが相手チームのボールをスティール。歓声の中、的確に回されたパスは、宮地さんの元へ。再びシュートフォームに入る。

「宮地、先輩! がんばって!!」

咄嗟に出た言葉はありふれてて、今更宮地先輩が必要とするような言葉じゃなかったと思う。ずっと声を吐き出していた、後ろの先輩たちは、ぴたりと黙り込んでしまった。
ネットが揺れて、ボールが落ちる。また色が落ちて、きらびやかな音を振りまいて、宮地先輩がこちらを見上げた。にやりと笑って拳を突き出す、きらりきらり、音がして。きっと今顔真っ赤になってるけど、やっとの思いで手を握って前に出した。



(輝くあの人が好き!)



声も聴いたことがない、近くで見たこともない。そのくせ俺がシュートを決めるたび、ボールを受け取るたび、明るい色を振りまきながら、柔らかい音を鳴らすように、表情を綻ばせるやつがいた。
黄色い声で塗り潰されたはずの目にも耳にもうるさい会場。その中でも、俺を追う彼女の音はいつも俺に届いていた。
いつからか、なんてもう覚えていない。気付けばそこにいた。

「きゃああ高尾くーんっ!!」

「緑間くん頑張ってえーっ!!」

何時も通りの媚塗れな言葉で満たされた声援に苛立ちながら、木村からボールを受け取ってダンクを決めてやる。ほら、また、輝くような、なんて陳腐な表現じゃ足りないような笑顔。
すぐにゲームは再開されて、俺たちのチームは順調に点数を稼いでいく。緑間のシュートで点差は20まで開いた。
しかし、相手チームも粘り強い。ゲームが再開されて、あっという間にボールは相手チームのコートまで運ばれる。が、先に走っていた高尾がパスをカットして、ボールは木村を経由してから、俺に回ってきた。ディフェンスを避けながらドライブして、シュートフォームに入る。

「みやじ、せんぱい! がんばって!!」

咄嗟に出たらしい言葉はありふれてて、今更俺が必要とするような言葉じゃなかった。だけど、真っ直ぐに俺に届いた、確か初めて聞いた彼女の声は、ふっと他の全ての声援を沈めたのだ。
ネットが揺れて、ボールが落ちる。また色が落ちて、柔らかい音を振りまいて、彼女が笑う。音の震源を見上げて拳を突き出すと、きらりきらり、音がして。真っ赤な顔で手を握りしめて前に出したあいつに、思わず顔が緩んだ。



(光るあいつがまた鼓膜を揺らした)
………………
遅くなってごめんなさい……
初めての書き方をしてみました。
音と色がテーマです 楽しかったです!

まそはる様、素敵なリクエストありがとうございました!

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