帰路の途中にある本屋で、雑誌の表紙を飾るみゆゆ(宮地くんいわく彼の推しメン)とかれこれ5分は続いている(ような気がする)睨めっこ。その弾けるような笑顔に勝てる気がしなくて、盛大なため息をついた。一緒に帰ろって言ったら「CD取りに行くから」、休日デートに誘ったら「ライブがあるから」、ケーキ食べたいっておねだりしたら「雑誌買ったから金無い」って! ……そりゃあ、勝てるわけがない。
それに、宮地くんって結構彼女とか誰でもいいやみたいな感じだから、いつ可愛い女の子に取られるかわかったもんじゃない。それに、私、宮地くんに愛されてる自信全くない。私はアイドルみたいに可愛くないし、キラキラしてないし、純情じゃないし……。胸がぎゅう、てなって、涙が出る前に本屋を後にした。本日何度目かもわからないため息をつきながらのそのそ家への道を歩く。

「何不幸オーラ出してんだよ、轢くぞ?」

「うわっ! み、……宮地くん」

「おー。俺で悪かったな」

振り返ると、眉をひそめながら口元をにやりって感じに緩める、いつもの宮地くんの笑顔があった。相変わらずの悪人面……しかしイケメン。こんな人が勉強も運動もトップクラスで、さらに性格は超ストイック、多少口は悪いが人に対してもなんだかんだ優しくてフレンドリーな人気者なんて。天は彼に二物どころか3も4も与えたらしい。改めて思う。不平等だ。モテないわけがない、よなあ、と思うと、引っ込んだ涙が再び……だめだめ、こんなとこで泣いたら嫌われるじゃん。
帰りおせぇな、本屋寄ったから、何買ったんだよ、別に何も、っていう淡白な会話をしながら、2人で歩く。歩幅合わせてくれるとことか、自然に車道側歩いたりとか、本当にさりげなく優しい。んだけど、これ、きっと私じゃなくてもやるんだろうな。あーあ、嫌になってきた。こんなふうに卑屈にしかなれない自分が鬱陶しい。宮地くんのタイプの女の子は、此処で素直に喜べる子なんだろうな。

「……ねー、宮地くん」

「あ? んだよ」

「別れよ――」

「無理」

「……」

言い切る前にぴしゃりと拒絶された。ちょっとだけ安心してる私は最悪だ。
実はこのやり取りは初めてじゃない。この一方通行すぎる関係に耐えきれなくて、何度か別れ話を切り出したことはあった。しかし、何故かその全てが無理だのやだだのという言葉で一蹴されてしまう。
最初は少し嬉しかった。この人も少なからず私と付き合いたいって思ってくれてるのかなあって思えた。だけど今は完全に彼の気持ちがわかんない。宮地くんにとって私ってなんなの? 彼女? それともただの虫除けかなんか? 苦しくて、またため息を吐いてしまう。それを聞いた宮地くんが、不機嫌そうにこちらを振り返った。

「何だよため息ばっか。鬱陶しいな、刺すぞ」

「……知ってるよ。じゃあ別れればいーじゃん。宮地くんはこんな鬱陶しい彼女より可愛い女の子選び放題のより取り見取りでしょ?」

「は? そういう問題じゃねぇだろ、意味わかんねぇ」

「そういう問題だよ!!」

思わず声を荒げる。宮地くんはなんもわかってない。堪えてた涙がぼろぼろ零れだして、嫌われたらどうしようって頭の隅っこで考えた。別れたい、けど、嫌いって言われるのは怖い。私、わがままかなあ。そうだよね、こんなんじゃ宮地くんの隣に立てない。宮地くんは私の視線より20センチ以上高いとこからこちらを見下ろしている。

「なんで私と付き合ってるの? 意味わかんないのはそっちじゃん!」

「……名字、」

「どうせ、どうせさあ、宮地くん私のこと好きじゃ、」

ぐん、と身体のバランスが崩れて、反射で目を瞑った。後頭部を押さえ付けられて、顔に何かがぶつかる。おそるおそる目を開くと、男子の制服が目の前にあって、宮地くんだと理解。声を上げようとすると、見計らったように押さえる力が強くなって、私は結局黙り込んだ。

「好きじゃねぇなんて言ってねぇだろ。……何、妬いたの?」

「や……妬くよ、そりゃ。不安だし、好かれてないって思ったら、悲しい、し」

「ばーか。おまえが初めてだよ」

「は、?」

初めてって、何が? よくわからなくて、顔を上げようとしたら無理矢理戻される。見んなばーか、って、宮地くんさっきからばーかって言い過ぎ。

「……これ以上は言ってやんね」

軽く私の肩を押して、宮地くんはすぐに私に背を向けた。すたすたと前を行ってしまう宮地くんの背中を見ながらしばらく戸惑う。ていうか、足、長いなあ。ってそうじゃないでしょ。少し歩いたとこで、宮地くんがちらりとこちらを振り返る。私は弾かれたように走り寄った。

「っ、宮地くん!」

「うるせー、撥ねるぞ!」

「ねえ、どういう意味!」

さっきとは反対に、私が宮地くんの腕を掴む。ばっと振り返った宮地くんに、もう一度、どういう意味なのって聞いてみる。言い淀んで、気まずそうに視線を逸らして、宮地くんがやっと口を開く。

「おまえといるの、緊張するし、どーすればいいかわかんねーの」

「……え、え、それって」

「あとは自分で考えろ」

ぐしゃり、と頭を撫でられて、顔が熱くなる。今度は私も宮地くんも逃げないで、彼の大きくてごつごつした手が私の小さな薄い手を絡め取った。

「み、宮地くん! 好き!」

「……おう、知ってる」

今、もしかして私すごく幸せかもしれない。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -