※失恋ネタ 注意





「今までありがとう。おまえのこと、好きだった」

ひどく優しい声だった。今までで一番暖かな過去形を理解して、受け取る。私は少し迷ってから、やっと彼に背を向けて、教室を出た。その時の彼の表情が、酷く切なげで、ああ、私はもうこの人のものではないんだなあとわかった瞬間、じんわりと胸に何かが溢れる。あの日の告白も、今日の告白も、私のことを想って伝えてくれた言葉だということが私を引き止める。それでも私は進まなければいけなくて、思わず苦笑した。そう、清志はどうしようもなく私に甘かった。
バスケも勉強もできる彼は、別にそれが当たり前なのではない。強くあることを強いられているようなものだったし、それでも彼は誠実で、手を抜くことが嫌いで。そんな彼が、いつか私を抱えきれなくなるのは予想していた。毎日それに怯える日々も、今日で終わる。
残った悲しみもいつかは時が浄化してしまうのだろう。

ぼうっとしたまま校舎を出て、花のように赤く咲いた夕焼けが急に鮮明に目に焼き付いた。なんで私は、君と幸せになれると思っていたんだろう。あの日、君がくれたたおやかで暖かい声が、足元で風に揺られている。

「……清志」

名前を呼べば気だるそうに振り返り、それでも柔らかく花開く笑顔が、好きで。今はもう無いそれを、私は忘れなければいけないのだ。
足を止める。足元の赤い花が、視界の端に映る。君のいない道を歩くのが、私にはまだ怖い。

(ごめん、ごめん、もう、少しだけ)

「好き、すきだよ……」

忘れるなんて嫌だ。離すには惜しい。子供みたいに駄々をこねる自分を今この瞬間だけ許しても、いいだろうか。その代わりに、溢れる涙が全て洗い流してくれることを祈ろう。


君のことが好きだった私は、もうすぐいなくなる。
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