※雰囲気暗い
※宮地が嫌な奴



 微動だにせず、袖を目許に当てて、時々肩を震わせては、ボトルの底に残った水滴のような苦し紛れな声を漏らすのだった。愛くるしい彼女にそんな姿をさせているのは俺だから、此処でこうしてその姿を記憶するのも俺だけでいい。つい先程まで我が物顔で彼女の隣を陣取っていた男は、こいつがこうやって慟哭する姿なんて知らないのだろう。その事に確かに優越感を覚える。
 放課後の校舎は、寒々しくて息苦しい。水中のような沈黙は、彼女を切なく締め付けて止まないらしかった。
「ひっ、……、うっ……たか、お、たかお……」
 すき、すきだよ、たかお、高尾。そうやって自分を傷付けたあいつの名前をひたすらに呼ぶ彼女は、酷く痛々しい。触れれば霧散して無くなってしまいそうな彼女と高尾が終わるように、背を押したのは、脚を掛けたのは、他でもない俺だ。
 名前を呼んで、そっと背中に手を回した。出来るだけ優しくさすると、ぼろぼろと零れる声が少し激しくなったように感じられる。
 好きな女が後輩のモノだと知って、手を回すのは悪い事だろうか? なんて、今更そんな些細な事は気にするつもりも無く。そもそもの話、力を加えたのは俺でも、陥落したのは2人の方なのだ。
 彼女の背中をさすっていた手に、力を込めて、その細い体躯を抱き締めた。彼女は終には俺に縋る。
「辛いよな」
「うっ……ひっ、ううっ……」
「大丈夫、俺以外見てねえから」
「う、ああっ……!」
 俺以外知らないから、存分に見せてくれよと、感付かれないように笑った。愛しい彼女は酸素を求めてまた泣く。
 少ししゃがんで、彼女と顔を合わせた。腫れて重たそうな瞼の下の黒い目が捕える俺の目には、やっと色が付いたらしい。ずっとそこは透明だった。そんなことにはずっと前から気付いていた。ざまあ、見ろだ。今頃体育館で俺を待っているんだろう、可愛い後輩に、内心で嘲笑した。
「泣いたらすっきりすんだろ」
「、うん……」
「大丈夫だから」
 あやすように頭を撫でてやれば、小動物が甘えるように胸元へ擦り寄ってくる。「俺なら泣かせねえのに」囁けど彼女は、聞こえないふりをした。その代わりにか、その細い肩が一瞬だけ、緊張する。ゆっくりと顔が上がってもう一度、視線が絡まった。目を細めると彼女は、溺れる者の動作で俺の制服を掴んだ。
「……目、閉じれば」
「っ、ごめん……」
「謝んなよ、轢くぞ」
 いつの間にか口癖になったいつもの言葉に、彼女は何故か安心したらしかった。張り付いた髪を払って、横溢する涙を拭う。冷えきって糸が切れてしまった体を支える。それから、薄く開いた口を覆って、人工呼吸する。
「みや、じ……」
「……名字」
 さあ、ほら、あと一押しだ。



(たった一度のささやかな罪)
(共依存様 提出)
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