目を開けると、目の前に目を閉じたままの綺麗な顔があった。茶色と金色の間みたいな中途半端な髪が、端整な顔に影を落としている。……ええと、どういう状況? 私は確か、昼食を食べ終わって、眠くなって中庭のベンチでぼーっとしてて。この人はクラスメートで、友人で、ええと、私の好きな人、で。なんだかお腹が重い。視線だけを動かすと、彼の手が乗っているのがわかった。私の呼吸に合わせて、上がったり下がったりしている。手長いのかな。普通にしてたらこんなところに手はこないだろう。
「……宮地」
名前を呼ぶと、気だるそうに細く目を開けた。なんというイケメン。ずるい。
「なに」
不機嫌そうな声で一言。この状況が当たり前だとでも言いたげな顔に、この状況は当たり前なのかもしれないと思えてきた。ぶっちゃけると眠くて頭が回らない。
「なんか……なんでもない」
「なんだよ」
「えへへ」
誤魔化すように笑うと宮地は顔をしかめる。それがおかしくて、また笑う。寝起きは思考が上手く回らずに笑いのツボが浅くなる。酔ってるみたいだ。へらへら笑っていると、今度はデコピンされた。「いて」「絞めるぞ」……体勢的に、ちょっと洒落にならない。このまま首絞められたら勝ち目は0だ。
「重くない?」
「重い」
…………。
「あのさ……」話題を変えるための質問だったのだが、返事が速すぎて少しへこんだ。「……そこは嘘でも重くないって言うとこだよ、宮地」デリカシーとかそういうものが無いのだろうか、こやつ。
「うっせえ、重い」
「ご、ごめん……」
なんだか謝らなければいけない気がした。してしまった。イケメンの圧力はときにとんでもない威力を持つ。こうかはばつぐんだ。膝枕って意外と疲れるもんなあ。動けないし。
急にこの体勢が恥ずかしくなってきた。好きな人のお膝元ですよ。ていうか、彼女でもないのになんて格好してるんだ私。事故かなんかだとしても、これは宮地ファンの皆様に殺されかねない。……そろそろ離れよう、か。おもむろに起き上がろうとして足に力を入れる。
「……どこ行くんだよ」
「あう」
私の動きに目ざとく気付いた彼に、お腹に置いてた手で頭を押し戻された。どこって、教室だよ。あ、でももう授業始まってんのかな……
「ここにいろ、縛って沈めんぞ」
「縛ってるじゃんすでに……」
行動制限な意味で。なんなんだこの人は。今度は私が呆れて、宮地が笑った。
「沈んではないのかよ」
にやりと口角を上げた彼に、呼吸が止まる。気がした。確信犯ってやつだろうか、だとしたら質が悪い。
「……溺れてるよ」
「あ、そう」
……一世一代の私の告白に、あ、そうとはなんだ。ああ、もう、恥ずかしい。言わなきゃ良かったかなあ。しかし興味無さそうな答えとは対照に、嬉しそうに笑いながら宮地の手が私の頬を撫でるのだから全く、この人は本当に質が悪い。
「宮地、」
「やっぱ起きろ、おまえ。重い」
「……」
雰囲気というものがわからないやつだ。軽く殺意が芽生えた。変な対抗心から起き上がらずに寝返りをうったら、空気が擦れるような、宮地が苦笑する音が聞こえた。
「嘘。キスできねえ」
宮地の顔を見上げる。催促するように軽く足を揺らされた。体を起こすと、すぐに肩を掴まれる。顎を掬われて、目を閉じた瞬間、唇が重なった。