高尾

ぴりりりり、と可愛げのない電子音がなって、俺はのそのそとケータイを確認する。11:57。メールじゃない、着信……向かいに住んでいる幼馴染だ。なんだ、可愛い女の子からの誕生日おめでとうメールかと思って期待したわばーか。いや、電話とメールで着信音変えてない俺も悪いのかもしれないけれど。ぴりりりり、ともう一度電子音が響く。はいはい、今出ますよ。

「……もしもしぃー、高尾ちゃんですよっと」
『あ、かず。おはよー、寝てただろ』
「わかってんならこんな非常識な時間に電話すんのやめてくんね?」

わりと本気でいらっと来たので、いつもの愛想笑いも忘れて凄んでみせる。非常識っていうのは、普通日付変わると同時だろっていうのと、こんな夜中にっていう意味を込めたんだが、この馬鹿に伝わっただろうか。と、空気の擦れる音と共にごめんごめんという声が届いた。……笑ってやがるこいつ。別に、もともと愛想笑いなんて必要とする仲では無かったけれど。

「ていうかおまえかよー、真ちゃんか可愛い女の子だったら嬉しいけど、おまえかよー」
『私で悪かったな』
「うそうそ、まじ嬉しいわ」
『それこそ嘘だろ白々しいな……』

今度はあからさまに「はあ、」と声でため息をつかれた。いや、嬉しくないわけじゃない。けどがっかりしたのも嘘じゃない。

「じゃあ俺――」
『あー、かず、窓開けて』

適当に切り上げて不貞寝してやるか、と口を開いた瞬間、相手に邪魔される。窓? あいつまさかわざわざ来たのかよ。まあ家向かいだけどさ。こいつのことだから窓開けても結局誰もいませんでしたーとかありそうだ。疑い半分、のろのろ布団から起き上がって窓に近寄る。ケータイを肩で挟んで、カーテンを開けて、鍵を開けて、窓を開けた。

「『かずー』」

ケータイと窓の外、両方から声が同時に響く。ケータイの通話を終了させて、窓の下を見ると寝巻+マフラーとカーディガンだけというこの気温の中ではいささか厳しい服装をした幼馴染。そいつはちらりとケータイを確認してからそれをポケットにしまった。

「おー」
「今自分の計画性の高さに驚いてたとこ」
「何がだよ」
「うるさいなー。ね、」

かずなり、と、突然名前で呼ばれる。いつもかずって呼ばれてるから、なんか、くすぐったい。なんだよ、と思わず無愛想に返すと、彼女はへらりと笑ってポケットから何か取り出して、こちらへ放った。ぴりりりり、と、可愛げのない着信音が部屋で響く。

「はっぴーばーすでい」
「……やるじゃん」
「でしょ?」
「今、おまえの計画性の高さに驚いたとこ」
「もっと言ってくれてもいいのよ」
「名前」

仕返しに名前を呼ぶ。名前は恥ずかしそうに笑った。

「悔しいけど嬉しいわ、ありがとなー」
「おうよ、おめでとう、かず」

名前はもう一度そう言って、ひらひら手を振った。
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -