宮地

恋は落ちるものだ。墜落、堕落、転落、陥落、脱落、崩落、滑落、どれでもあってどれでもない。そう語ると、宮地さんは迷惑そうな顔でただ一言「何おまえきもい」と言った。ああ、そんな表情も素敵です宮地さん!

「会った瞬間、まさに私は恋に落ちたのです。あなたの容姿に、仕草に、声に、言葉に、突き落とされたのです!」

「そーかよ、おめでてーこった。死ね。」

「やだ宮地さんったら厳しい! でもそんなとこも素敵!!」

「うわあ」

きゃっとか言いながら喜んでみたら、本気でどん引きされた。ちょっと傷付いた。でも構わない、そんなことで私の愛は揺るぎませんから!

「……で、注文は?」

「宮地さんをテイクアウトで」

「帰れよ」

「冗談です! 半分! カフェオレください!」

「残り半分なんなんだよ。あ、やっぱいいわ言うな。カフェオレな」

勿論本気ですと言おうとしたところを、タイミング良く止められた。さすが宮地さん、ハイスペック!
言い忘れていたが、此処は駅前通りにあるカフェだ。宮地さんと運命の邂逅を果たすだいぶ前から、勉強するときは此処に来ると決めていた。しかし宮地さんが此処にバイトに入って、初めてその姿を視界に入れた日から、私はほとんど毎日此処に来ている。おかげでちょっと成績が上がった。
宮地さんは高校生らしい。部活はすでに引退したと言っていた。暇になったから一人暮らしのためにバイトを始めた、ということだ。

「宮地さんは勉強しないんですか?」

「あー、指定校推薦でもう入学ほとんど決まったようなもんだかんなー」

指定校推薦……てことは頭良いのか、そう思いながら問題集を開くと、突然某有名国立大の名前が降ってきた。「え?」「俺が行くとこ」はい、カフェオレ。宮地さんの言葉に驚愕した。それ頭良いとかのレベルじゃないよね!?

「んだよその顔」

「み、宮地さんのハイスペックさに驚いてました」

「はっ当たり前だろーが」

「ですよね!!!」

凄いなあ。私も頑張らないと。意気込んで問題集に向き直ると、「ふは、おまえ、馬鹿なの」頭上で宮地さんが突然噴き出した。えっ?

「おまえ俺のこと好きすぎだろ」

「え、ええ?」

「いや、なんつーか、反応が新鮮だわ」

「なにが!?」

いたって普通の反応をしたつもりなんだが。と、いうか、宮地さんが笑ってる……! くつくつと喉を鳴らすように笑う、表情が、見たことなくて、その……
思わずおどおどしていると、「何やってんだよ」とぺしんと叩かれた。痛い! けど宮地さんが触れてくれたのが嬉しいから許しちゃう! 喜んでいると、また気持ち悪そうな顔で一歩下がられた。

「普通、いいなーとかずりーとか言うじゃん? こういうこと言うと」

「あっいますねそういう人。何がずるいのか私には理解出来ませんけど」

「……やっぱおまえ変わってるわ」

「ありがとうございます!」

「褒めてねえよ頬染めんな」

努力する権利は等しく与えられているのに、ずるいなんて言う人の心理は本当にわからない。変わってるんだろうか。そうかもしれない。ただ、宮地さんに普通だって評価されるのはちょっと寂しいので、私はそれで大満足だ。

「あー、おまえさ」

「はい! なんでしょう!」

「……やっぱなんでもねえわ」

「ええ!」

今日の宮地さんはどうしたんだ、なんかいつもと違うぞ。そんな宮地さんも好きだけどね。宮地さんは淡いカフェオレ色の髪をかきあげながら、また口を開いた。

「シフト7時までだから」

「へっ」

「テイクアウトすんだろ?」

「!! し、します! します!!」

うっせーよ声落とせ! 宮地さんが顔を微妙に赤くさせて慌てだす。テイクアウトって、なんか宮地さん似合わないなあ。でもそんなところも可愛くて、とにかく好きで。今日は初めて見る宮地さんばかりで、新しく知った彼とまだ知らない彼に、私はどんどん深くまで落とされていくのだ。



(この体いっぱいに満ちた愛を君へ!)
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -