宮地

クリスマスはもうすぐ終わりますが、皆様如何お過ごしでしょうか。友人と一緒に料理とお酒と愚痴を囲んで団欒しているのでしょうか。家族みんなでプレゼントとありがとうの交換をしているのでしょうか。彼氏や彼女と性なる夜を満喫しちゃったりしているのでしょうか。一人でワインを開けてゆっくりゆっくり進む秒針と共に微睡んでいるのですか。私みたいに課題となかよしこよししながら男友達の連絡を待っている人は何人くらいいるのでしょうか。

(クリスマスは一緒にみゆゆが出てる映画見ながらリア充を呪って過ごそうぜって言ったのに!)

なんで私は1人で課題をやっているんでしょうか。さっきから(A)が微妙な顔でこっちを見てるようにしか見えない。
かわいい女の子がキャピキャピしてるのが好きで、宮地とは仲良くなった。でも、言ってしまえば共通点なんてそれだけでした。私は体重が気になる女の子で、宮地はバスケが得意な男の子。私は文系で、宮地は理系。私は夜真っ暗だと寝れないけど、宮地は豆球も要らない派。私はコーヒーはブラックだけど、宮地はカフェオレが好き。私は宮地が好きなのに、宮地は私が好きじゃない。こんな具合。

やっぱり、カレカノでもない女子と男子が一夜を共になんて冗談じゃないんですか? お泊まりじゃなかったらセーフじゃないですか? 彼は私にただの友人以上になんて、水素原子1つ分も感じてないに違いないのに、それでもやっぱり駄目ですか。

(……私が宮地を好きになったからかなあ)

それが分かれば、いくら仲良くたって宮地はきっと距離を置く。あいつは不器用だし、優しいし、なんてったって私のこと好きじゃないんだもの。
万が一好きって気持ちが有ったらって考えたことはあるんです。でもその度に否定してきた。だってそう思い込まないと、刷り込まないと、とてもじゃないけどやっていけないんですよ。もしかしたらなんて要らない関係なんです。このままでいいんです。惰性じゃなくて、これがベストなの。

世の恋人たちは今頃素敵な聖夜を過ごしていることでしょう。目の前に並んでいるのとカレンダーに並んでいるのが同じ数字とはちょっと信じられない。というか皮肉。皮肉だわ。骨抜きなのは私だけど。なんてね。

「リア充なんてみんな爆発すればいいのに」

カチカチ。シャー芯を押し出して、出し過ぎた分を戻す。別に明日提出でもないのに何で課題なんてやってるんですかね。宮地が来ないからか。

『きみっのーこーえーをきーくーだけっでぇー』突然鳴り響いた流行のアイドルソングに、思わず肩が跳ねる。この曲は電話のときにしか鳴らないはずです。慌ててケータイを取って『ケーキっみたいなー』ぶつんっ。はいもしもし。まみりんとつっきーの声を途中で止めちゃったのがちょっと罪悪感。着信音、後で変えましょう。

『名字?』

「当たり前じゃん誰にかけてるの」

『うっせーな折るぞ』

何をですか怖いですよ宮地さん。声聞けたのが嬉しくて心中呟いた声は普段より5割オクターブ上げ。

『つーか、わりい。滑り込みで彼女出来たわ』

「はーいー? ふざけないでみゆゆは私のよ」

『ちげーよ死ねよ』

「え、やだ」

あ……いいよ、死んであげても。咄嗟にいつもの調子で返したけど、口から零れそうになった言葉は脳ミソから喉を通り越して肺らへんをぐるぐるぐるぐる。私の口と脳、今ばかりは本当にグッジョブです。今宮地に八つ当たりするのは違いますもんね。ああでもやっと来た連絡が裏切り報告だったからいいのかな。
あれ、ところで息の仕方ってどうやるんでしたっけ。

「じゃあ今日は来ないんだね」

『あ? 何言ってんの。行くけど』

「いや、宮地が何言ってんの……」

『あははークリスマスにでっかい傷跡プレゼントしてやろうか。刺されるのと殴られるのと轢かれるの選べや』

「抱かれるのでお願いします」

『……何言ってんのおまえ』

いや、本当に何言ってるんですかね私。でも宮地なんでうち来るの、彼女出来たんだったらそっち行けばいいじゃないですか。お互い何言ってるかわかんないとか、もうそれ言語が意味を為してないよね。人類史上最大の発明なんだからもっと有益に扱おうよ。
ぴーんぽーん、とチャイムの音が鳴る。ケータイを持ったまま、玄関に走った。がちゃん。190センチがケータイを耳に押し当てて黒い世界に向けて白い雲を生成していました。雲はすぐに霧散して、宮地の顔がよく見える。

「おまえだっつうの、彼女」

「……へっ!?」

ぶちっ、つー、つー、通話の終了を知らせる音が聞こえて、宮地がにやりと笑いました。なんで私が彼女なんですか。彼女? え、宮地の?

「み、み、みや、……」

「は? 清志だろーが、東京湾の藻屑にすんぞ」

「ちょっ、ま、はあっ!? なんっ」

「あーもう、めんどくせえなおまえ!」

いや、どう考えてもあなたが端折りすぎなんですよ宮地さん。手袋をはめた、私より関節1つと半分くらい大きな手ががっしり私の頭を掴んだ。な、なんだなんだ。鷹の次は鷲か? うちのバスケ部猛禽類多すぎませんか。あ、鷲は先約がいるんでしたっけ。
思考が完全に逸れてしまった頃に、宮地が舌打ちした。「こっち、見ろ」頭の手が離れてぐい、と顎を掴まれて、思考回路も掴まれた。30cm弱が、視線で繋がる。

「好きだ」

「……っ、う、えっ……?」

「おまえは?」

「、え、ちょっ宮地、」

「清志だっつってんだろが」

「き、きよし……さま」

「なんだよ名前」

無邪気すぎる邪気たっぷりな笑みに、どっくんどっくんと心臓がうるさく鳴り響いて非常事態を身体中に伝えてる。寒い、寒いのに暑い。というか熱い?
混乱した頭でも1つだけ確かにわかることが有りました。非常事態も非常事態、とにかく出来ることから始めましょう。ということで、その言葉は割と簡単にするりと口から生まれ落ちたのです。

「す、好き……です」

「……ならよし」

とん、と肩を押されて、呆気なく玄関にへたりこみました。宮地……改め清志が入ってきて、ドアを後ろ手に閉めて、私の上にかぶさるようにして手を床についた。顔と顔の距離が、さっきよりぐんと近くなって

「後でお望みどーりにしてやっから、目、閉じろよばーか」

金糸が頬に当たってくすぐったい。暗闇の中に、ぱちぱちと火花が弾けて星が生まれた。



(メリークリスマス・ミスタービトレイアル!)
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