宮地

明日が来ないかもしれない、なんて考えること、なかなか無い。そう考えたらいい機会と言えばいい機会なのかもしれないし、ただの友人との話題の1つと言われればそれもまたその通りだと思う。

今日、世界が終わるらしい。

そのことを隣の席の宮地に話してみると、案の定微妙な表情で「んなわけねーだろ」と一蹴されてしまった。

「そんな突然さくっと終わるようなもんじゃねえよ」

「はあ、まあ」

「おまえからふった癖に適当な返事してんじゃねーよ轢くぞ」

「ご、ごめん……」

思わず謝ると宮地はまた微妙な表情になった。
席替えでこの人の隣になったとき、思わず顔をしかめたのを覚えている。彼が隣なんて、うまく喋れるか、自然に振る舞えるか、自信が無かったのだ。

そう、私はこの人が好きらしい。

「……名字は、信じるのかよ」

「え、いや、そういうわけじゃない、けど……でも、もし明日が来なかったらって考えると、」

考えると? 怖い、とか嫌だ、とかそういうのじゃないけど、なんかモヤモヤする。「と、何。」黙ってしまった私の顔を覗き込んで、少し笑う宮地に、思わず胸が高鳴った。ああ、もう、これだから嫌だったんだ。

「……寂しい、かなあ」

「寂しい? 普通怖いとかじゃねえの?」

「だって」

宮地の方を見ると、ぱちん、と視線があった。今、私何を言おうとしてたんだろう。言葉は失われて、私は視線を外せないまま「……いや、なんでもない」ゆっくりと口を閉じた。

「なんだよおまえ、さっきから。刺すぞ」

「や、あの、今さらっと好きな人暴露しそうになった……」

「はあ? 馬鹿じゃねーの」

「ぐ、」

仰る通りですごめんなさい。なんて素直に言えるわけでもなく、私はふいと視線を逸らす。すぐに隣から呆れたようなため息が聞こえた。

「……名字の好きな奴くらい知ってるっつーの」

「はっ?」

「馬鹿だろ、おまえ」

思わずまた、視線が宮地のほうを捕えた。クラスメートはみんな、教室の隅っこの会話には興味が無いらしく、こちらのことなんて全く認識していないようだ。唯一私にピントを合わせる瞳が、すうと細められて、緩やかに、笑う。

「俺がいないと、寂しいワケ?」

「……っ、ち、ちがうってば、別に」

「違う?」

ごく自然にこちらへ伸ばされた手が、指が、頬を掠めてから私の髪に触れた。思わず目を細めると、宮地は喉をくつくつ鳴らす。五感全てを奪われたような感覚で、脳ミソは上手く仕事しない。

「言えよ」

「宮地、ここ、教室……っ」

「じゃあ、嫌がれば?」

後頭部に回った手が、ぐいと引かれて、慌てて手を机についた。目の前にはこちらを見下ろす色素の薄い瞳があって、視線が離れないように絡みだす。

「俺がいないと寂しい?」

声が上手く出なくて、一度だけ、小さく頷く。宮地は意地悪く笑ってから、私の後頭部を解放した。身体中が熱くて、死にそうだ。世界が終わる前に私が終わってしまう。

「は、顔真っ赤」

「う、うるさい……」

「てことでおまえ、今日から俺の彼女な」

「え!?」

「何、嫌なの?」

「い、いやじゃない、けど」

突然すぎやしないか、軽く混乱するも、宮地はそんな私などお構い無しだ。大体宮地の気持ちも聞いていないのに……!

「だろ。じゃあ決定」

「ちょっと、宮地……!」

「んだよ、ごちゃごちゃ言うなよ焼かれてーの?」

「理不尽!」

「世界終わっても離してやんねーから安心しろよ」

チャイムが鳴ると同時に、ぽすんと頭を撫でられる。反論しようと宮地の顔を見ると、少し顔を赤くしてそんなことを言い出すのだから、私は為す術もなく俯くしかない。
ああ、もう、これだから嫌だったんだ



(例えばそれが運命だとして)
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