宮地
※恋愛要素がない
※夢主の口が悪い
正直言って、男子バスケ部は大嫌いだ。
あいつらのせいで私たち女バスの新入部員まで増えて、ただでさえ練習場所が無いのに更にスペースが存分に使えなくなった。人数に差があるとはいえそれだけでは説明のつかない程度には贔屓された部費にも納得がいかないし、「こんなにレベルが低いとは思わなかった」なんておまえがいても何の役にも立たねーよふざけんなみたいな新入りがどんどん辞めていくのにも腹が立つ。おまえはまずピボットターンから覚えやがれ。
結局部員数はがっつり減って、私たち2年が4人、先輩はキャプテンとエースだけ、後輩は3人という有り得ない状況。エースは部内で一番上手いし可愛いし厳しいし優しかったけど、キャプテンは最近幽霊部員と化している。1年3人は中学からバスケ部だったらしく、結構上手かったりするけど、やっぱり即戦力にするには少し頼りない。
「男子バスケ部なんて廃部になっちまえ」
「名前、目が据わってるよ」
「……ごめん」
出来る限り軽くバスケットボールを放り投げて、キャッチする。そのまま片手でボールを押し出して、シュート。よし、上手くいった。ボールはリングを音もなく通り、床に落ちて転がった。
「はあ……相変わらず、上手いよねえ」
「ふっふっふ、小学生の頃からミニバスやってたからね。経験値だけは負けないわよ」
「名前、目が据わってるよ」
「……ごめん」
と、突然、ぶわっと風が吹き込んだ。誰だ扉開けたの、寒いだろ閉めろ! そう言おうとして振り返ると、すぐに扉は閉められた。なんだ、と思ったが、次の瞬間私は思い切り顔をしかめる。
「宮地先輩!」
「げっ……」
「おー誰だ今げっつったの。女バスか?」
「すいませーん」
ボールをゴールの黒枠に向かって放り投げながら、適当に返事を返す。あ、くそっ外れた。友人は隣で「やっぱり超かっこいい……!」なんてほざいてる。おい。
「まあいいわ、ボールの空気入れ貸してくんね? うちの体育館の全部壊れてやがんの」
「はあ? 誰が男バスなんかに」
「ちょっと名前! すいません、すぐ持ってきます!!」
ばたばたと倉庫の方に走って行った友人を見送って、更にイライラが募る。なんでそんなに下手に出なきゃいけないんだ。先輩だから? イケメンだから? 男バスだから? くそ、ムカつく、ムカつく!!
「……何イライラしてんだよ、肌荒れんぞ」
「はい? 肌荒れとか、女子ですか」
「少なくともてめーは女子だろーが」
「バスケに男女は関係無いので問題無いんで、すっ」
ぐ、と小さく屈んで、伸び上がる勢いでボールを放る。綺麗な弧を描いたボールがリングを通るのを見て、少しだけ気持ちがすっとした。やっぱりこのボールだけは私を裏切らない。
「……へえ、うめーじゃん」
「はっ、女バスSG舐めないでください」
「ふうん、おまえSGなの。じゃあ、」
ふわっ、と、風で木の葉が浮くように、酷く自然に手の中のボールを奪われた。驚いて先輩の方を見ると、既に構えの体制に入っていて。練習用の半面コートとは言え、スリーポイントラインからだいぶ離れた此処から、ろくに狙いもつけずにこんなに速くシュート出来て溜まるものか。そう思って口を開いた瞬間、軽く曲げられた膝が伸びて、ボールは綺麗に回転しながら、リングに向かって放物線を描いて。
「こんぐらいできんだろーな」
「う、そ……」
ま、俺SFだし、試合中こんなのやんねーけどなー。ボールが床にぶつかると同時に、さらりと放たれた言葉に更に愕然とする。SGなのに、スリーポイントシューターなのに、同じフォワードとは言えSFに負けるって……!
悔しい、悔しい。負けたことなんかよりずっと、純粋に、すごい、綺麗、かっこいい、なんて、ミーハーかよみたいな感想が一瞬で湧き出てきたのが、悔しい。
「空気入れありましたよー」
「おー、わりーな。じゃあな名字。スリーポイント、練習しとけよ」
「えっ、あっ……」
「え、ちょっと名前、何仲良くなってるの!」
ずるい! と叫ぶ友人の言葉に、心中で深く頷いた。ずるい、ずるいじゃないか。あんなシュートを見せられて、練習しとけよなんて言われて、男バスが嫌いなんてもう言えない。私だってバスケが好きなのだ。
「……私、もっとバスケ上手くなる。練習してやる」
「どうしたの急に」
ボールを持って、軌道を視線で描く。上手くなって、練習場所を確保してやる。男バスが強くて適わないんだったら、女バスも強くなるしかない。有言実行だ。
だん、だん、とボールをついて、描いた軌道をなぞるように、手から解放する。ボールは透明なレールに沿って、綺麗にリングに収まった。
「名前、目が据わってるよ」
「……ごめん」
ごめん友人よ、しばらく止められそうにない。
(Look up at the place which is higher than here!!)
(続きます)