※海常三年生と黄瀬

二月の十四日。自由登校期間だというのに、笠松がわざわざ海常高校近くの公園にまで訪れたのには理由があった。前日の夜、武内からメールが来たのだ。『用事が無いようなら、ぜひ来てほしい』呼び出される理由も記されていないそれに首を捻りつつも訪れた公園には森山と小堀も揃っていて、三者三様に反応を示す。監督に呼び出されたというのに、学校でなく遊具も十分にない小さな公園を指定されたというのも不思議だった。
とりあえず、久しぶりだな、と挨拶を交わしていると、先輩、と呼ばれる。三人同時に振り向けば、そこには金色の髪を乱した黄瀬がいた。走ってきたのだろう、頬も紅潮している。

「あの、呼び出したの俺なんです。監督に我が儘言って」

シバかれないだろうか、と少しだけ笠松の様子を窺うようにして近付いてきた黄瀬が、これ渡したくて、と差し出した手には、三つの可愛らしい模様の散った袋がのっていた。

「今日バレンタインだから、調理実習のお題だったんスよ。自分で言うのも変だけど、上手くできたんで。監督と早川先輩のお墨付きも貰ったし」

それぞれに小さな袋を受け取って、口を結んであったリボンを取り去り、中を覗き見る。星、花、鳥。そこには色々な形のクッキーが溢れんばかりに詰め込まれていた。

「定番だなぁ」

寒さに強張っていた頬を緩めながら、森山が言う。どこか愛しげに袋と黄瀬を見つめながら、ありがとう、と呟いた。美味しいよ、と早速一口食べて感想を述べたのは小堀で、その言葉に黄瀬もゆるりと黄金色の双眸を細めて微笑った。笠松が手を伸ばして、さらさらと指通りの良い金糸を撫でる。

「それにしても、これ失敗したらどうするつもりだったんだ?」

監督からメール来たのは昨日だけど、これ作ったのは今日なんだろ、と首を傾げてクッキーを頬張る森山が問うた。小堀と笠松も同様に頷く。

「失敗しない自信はあったっスよ。研究したっスもん」

「「「研究?」」」

「クッキー作る動画をいくつか見て、家でも二三回作ってみたっス」

失敗したのを先輩たちに渡すわけにはいかないじゃないスか。そう言って微笑う黄瀬に、少しだけ胸がキュンとしたような気がするんだ、と後に語った森山に、小堀と笠松も同意を示した。



それはバレンタインデーのこと。
学校じゃ女の子につかまるからと、黄瀬がわざわざ学校近くの公園を指定したことにも合点がいく。全部食べてしまうのはもったいないな、とゆっくり味わいながらクッキーを口に運ぶ先輩たちを見て、後輩が幸せそうに笑った日だった。



- - - - - - - - - -
先輩たちはホワイトデーに何をくれるのかしら。

2/3〜2/27(2013)
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -