※信号組(黒・火・黄)

両手にスーパーの袋を提げた黄瀬と黒子が火神家の玄関に現れたのは、キッチンに置かれた炊飯器が音を立てたと同時だった。何事かと驚く火神のことなど気にもせず黒子は靴を脱ぎ、黄瀬は袋から取り出したすし酢の瓶を持ってにっこり笑う。まるでCMにでも起用されそうな素晴らしい笑顔で、金髪の男はこう言ったのだった。

「恵方巻き作るっスよ!」



ぐぐっと力を入れて火神が巻いた恵方巻きは、欲張って具を入れ過ぎたのか今にも海苔が破れそうである。それを見て、黄瀬と黒子は少しばかり残念そうな顔をした。

「火神っちは料理上手いから、こういうのもくるくるっとやっちゃうかと思ったっス」

「初めて巻いたんだよ! そう言うならお前らもやってみろ!」

火神に巻きすを渡されて、黄瀬と黒子も思い思いに好きな具を入れ、恵方巻きを巻いていく。

「あ、黒子っち、すごい上手いっスね!」

「黄瀬くんも、なかなか綺麗にできてるじゃないですか」

ふわふわと花が飛んでいるかのような会話に火神は深く息を吐き出し、吸い物でも作るかと棚から鍋を取り出した。



「いいっスか、火神っち! 今年の恵方は南南東、食べ終わるまでは喋ったらダメなんスよ」

「はぁ?」

「はい、では、いただきまーす」

「火神くんもお腹すいたでしょう。思う存分丸齧りしてくださいね。いただきます」

もぐもぐと恵方巻きを頬張り始める黄瀬と黒子に置いて行かれた気分になりつつ、火神も目の前の皿にのせていた恵方巻きを手に取った。大きく口を開けて、思い切り齧りつく。

(あ、うめぇ)



二月三日の夜、都内某所にあるマンションの一室には、男子高校生三人が南南東を向きながら無言で恵方巻きを咀嚼する光景が広がっていた。


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案外黒子くんが恵方巻き作るの上手そう。

1/21〜2/3(2013)
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