5日目


黄瀬の世間勉強四日目で四回目の誠凛高校バスケ部見学は、他校との練習試合だった。歩いていける距離にある対戦校で行われた試合は俺たちの快勝で、観戦していた黄瀬も嬉しそうで、意気揚々と学校までの帰り道を歩いていた。
ぽかぽかと三月下旬の気候は心地よく、だからこそ皆の気が緩んでいたのかもしれない。列の一番後ろ、俺の隣を歩いていた黄瀬が、道路に飛び出したのに気付くのが遅れた。伸ばした俺の手の先を、黄瀬の服が掠める。大きく響くクラクションが聞こえて、自動車が近付いて来る。
最初に飛び出したのは黄瀬の隣にいたテツヤ2号で、彼はそれを追いかけるために飛び出したのだということは、後になってから知った。



衝撃で跳ね飛ばされ道路に横たわる黄瀬からは、おかしなくらい血も何も出ていない。腕が変な方向に曲がっていて、直視するのが辛かった。蜂蜜色の瞳は閉ざされたまま、開かない。
遠くから、救急車のサイレンの音が聞こえてきた。







◇◆◇







脈がない、心臓が停止している、という救急隊員や医者に、それは気にせず折れた腕と体のあちこちに出来た擦り傷と打撲の治療をしてくれ、と半ば怒鳴るように頼み込んだ。黄瀬には最初から心臓なんてないのだ。面会時間が終わるまで付き添ってくれた黒子から、あのときの火神君は般若のようでしたよ、と言われるくらいにはひどい顔をしていたようだ。
チームメイトたちに説明してくれるという黒子に甘えて、俺は病院に残っている。白い病室のベッドに横たわっている黄瀬は、まだ目を開けない。おかしな方向に曲がっていた腕は、治療されギプスで固定されていた。
恐ろしいくらい黄瀬に似合う白い色は、陽が落ちてしまった今では夜色に染まってしまっている。ひどく静かな病室内に、俺の息を吐く音だけが聞こえていた。








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