黒くて金色 |
それから何百年かの時が経ち、平成と呼ばれるようになった時代。 草を掻き分けながら進んで行く同級生に向かって、黒子は息を荒げながら声をかけた。 「青峰君、もう帰りましょう」 「んだよ、テツ。この山の奥にでけえ蝉がいる気がすんだよ」 何ですかそれは野生の勘ですか、この野生児が、と心の中だけで毒づいて黒子は嘆息する。 中学生にもなって、こんなに野山を駆け回っているのはうちの学校では青峰くらいだろう。それに毎度付き合わされる己の身にもなってほしい。 「あ?」 「どうしたんですか?」 藪の向こう側に消えた青峰の声に黒子も嫌々ながら藪を掻き分けて、そしてぽかんと口を開けた。 「子供が二人も。珍しいっスね」 そう言って笑ったのは、青峰でもないしもちろん黒子でもない。 綺羅綺羅と木漏れ日に明るい金の髪を反射させ、瑠璃色の着物を身に纏った少年がそこにはいた。 年齢は黒子と同じくらいだろう。その身長は青峰よりも低い。 「俺らが子供なら、お前も子供だろ」 眉間に皺を寄せる青峰に怯むこともなく、金色の少年は微笑む。 「何しに来たのか知らないっスけど、こわ〜い化け物が出るから早くこの山から出た方がいいっスよ」 蜂蜜色の甘そうな瞳を細めて、少年は目の前の青峰ではなく黒子に向かってそう言った。それにさらに苛立った青峰の襟首を引っ張って、黒子はぺこりと頭を下げる。 「……そうします。お邪魔しました」 「ケガしないよう気をつけてね」 ひらひらと手を振る少年に背を向けて、黒子は青峰を引きずりながら今まで歩いて来た場所を引き返し始めた。 「テツ離せよ。何で簡単にあいつの言うこと聞いてんだ」 「……君は気付かなかったんですか。あれは、人ではないですよ」 その言葉に青褪める相棒を見遣ってから、黒子は襟首を掴んでいた手を放してやる。 (あんなに綺麗なものが、人であるはずがありません) 「涼ちゃ〜ん、何か物音したけど大丈夫?」 常盤を連れて歩いて来た高尾に、黄瀬は駆け寄った。 「大丈夫っスよ。可愛いウリボウちゃんが二匹、顔出しただけっスから」 「そ?ならいいけど」 黄瀬の言葉を見透かして、高尾は黒い瞳を細めて笑う。 「もう少し山の奥に引っ越しちゃう?」 「そうっスねぇ」 仲良く並んで歩く二人の隣を、夏の爽やかな風はただ通り抜けていくばかりだった。 |