その色は櫨染


高尾と黄瀬が共に暮らすようになって二年が過ぎようとしている。
黄瀬の背はぐんぐんと伸びて、今では高尾より僅かに低いだけのそれも、あと一つか二つ季節を跨げばすぐに追い越してしまうだろう。
高尾にとっても黄瀬にとっても、この二年間は驚くほどに穏やかで幸せなものだった。



バサバサと大きく羽音を響かせて新雪かと見紛うほどの真白い鷹が飛びこんで来たのは、黄瀬が土間で朝餉の支度をしているときだった。奥の部屋から聞こえてくる常盤の鳴き声と高尾の宥めるような声を不思議に思いながら、黄瀬は土間から顔を覗かせて様子を窺う。
一番に目に飛び込んで来たのは、常盤がいつも止まり木代わりにしている几帳に羽を休める白い鷹だった。頭の先から翼の先に至るまで汚れのないその白さは、誰もが見惚れてしまうに違いない。
その白い鷹に向かって、高尾の肩に掴まった常盤が不機嫌を露わに鳴いている。困ったように眉根を寄せる高尾の薄墨色の寝巻に食い込む常盤の爪が痛そうで、黄瀬は声をかけた。

「高尾っち、常盤っち、どうしたんスか?」

名を呼ばれたことに反応した常盤は、高尾を離れて飛んで来ると竈にかけてあった鍋の蓋の上へと舞い降りる。竈にはまだ火のついていないことを確認して、黄瀬は再び高尾の方に顔を向けた。

「召集かかっちゃったみたい」

そう言った高尾は、珍しく苦笑している。





いつもの真っ黒な装束に着替えて炊きあがったばかりのご飯を食べながら、高尾は詳しい事情を話した。
何十年かに一度、全国の天狗が一堂に会する催しがあること。それを伝えるために、白い鷹はこの屋敷を訪れたのだということ。その会合は二三日かけて行われること。故に、この屋敷を数日留守にしなければならないこと。
そこまで告げて、高尾は心配そうに正面に座っている黄瀬を見つめた。

「涼ちゃんを一人置いて行きたくはないんだけど」

天狗だらけの会合に、人間である黄瀬を連れて行くことはさすがの高尾も出来そうにない。
危険な場所にわざわざ連れて行くよりは、化け物が出ると恐れられているこの山の屋敷に留守番をさせた方が安心だと考えたのだ。

「大丈夫っスよ!高尾っちと常盤っちがいない間も、この屋敷は俺が守ってみせるっス」

そう言う黄瀬の笑顔につられて笑みを浮かべながらも、高尾はそうではないのだと言いたいのを堪えた。
確かにこの屋敷には何十年何百年と住んではきたけれど、黄瀬に比べたら大事でも何でもない。屋敷が焼けようが崩れようが、それを守ろうとして黄瀬が傷ついてしまってはどうしようもないのだ。

「……涼ちゃん、留守番よろしくね」

言いたいことは全て胃の腑に飲み込んで、高尾はさらさらと指通りのいい金髪を撫でた。
一頻り金色の頭を撫でた後、用意された朝餉を全て綺麗に食べ終えると、高尾は常盤を連れて飛び立つ。
屋敷の外に出て見送ってくれる黄金色がどんどん小さくなっていくのを高尾は少しの辛抱だと自分に言い聞かせて、空を切る背中の羽に一段と力を込めた。







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