その言の葉は |
「きーちゃんの着物は、出来上がり次第届けるね」 にこにこと微笑みながら手を振る桃井の隣で、その主人でもある緑間も別れの言葉を口にする。 「また、遊びに来るといいのだよ。お茶くらいは出してやろう」 その言葉に、素直じゃないなぁ、と緑間以外の三人が笑う。 緑間と桃井に見送られながら、高尾と黄瀬は真っ赤な夕焼けに染まる道を歩いて町を出た。もう少し歩いたところにある大木の下で、高尾の術を使って屋敷に戻ることにしている。 「高尾っち」 着物の袖を引かれて、高尾は隣の黄瀬と目線を合わせるように少しだけ屈んだ。 夕焼けのため、鼈甲の瞳に朱が混じっている。 「着物のお金どうしたんスか?俺、高尾っちに返さないと」 緑間の屋敷で桃井が見繕ってくれた着物の生地は、黄瀬が今まで触れたこともないような上等なものだった。母が大事にしていた一等綺麗な着物よりも、滑らかで美しかった。 だからこそ、黄瀬は不安になる。高尾に負担をかけたのではないか、と。 黄瀬はもちろんお金なんて持っていなかったけれど、どこかで働くことが出来たならば少しは手に入るはずだ、とそこまで考えたところで、優しい手に頬を撫でられた。 「涼ちゃんは、何も心配することないよ。こう見えても、俺、けっこうお金持ちなんだよね。山で採れる珍しい薬草とか毒草とか茸とか、真ちゃんに売ったりしてんのよ。真ちゃんってほら、陰陽師だから。術のために色々必要なものがあるんだけど、それがなかなか町には無いらしいんだ。だから、俺が持って行ったモノを高値で買い取ってくれるわけ」 細められた黒い瞳に、沈みかけの夕日に照らされた黄瀬の顔が映り込む。 高尾は僅かに口端を引き上げて、目の前の子供に向かって微笑んだ。 「涼ちゃんは、俺の隣にいてくれるだけで十分だよ」 |