陰陽師と天狗


「真ちゃん、久しぶり!」

「声が大きいのだよ」

大きな町の端にある立派な屋敷へと辿り着いた二人を出迎えたのは、背の高い男だった。
高尾の背中に隠れるようにして立っていた黄瀬を見て、男は再び口を開く。

「それが例の子供か」

「うん。ほら、涼ちゃん、大丈夫だよ。真ちゃんこう見えても、可愛いもの好きだから」

促すように背を優しく押されて高尾の後ろから出て来た黄瀬は、自分より頭二つ分ほど大きい男を見上げてお辞儀をした。

「黄瀬涼太っス。よろしくお願いします」

眩いばかりの髪色に目を細めながら、男も同じように名乗る。

「緑間真太郎だ。……よろしくお願いするのだよ」

緑間の美しく整えられた左手が黄瀬の頭を撫でるのを見て、高尾は破顔した。





色とりどりの反物が並べられた隣の部屋からは、少し緊張した黄瀬の声と緑間の式神である桃井の楽しそうな声が聞こえてくる。着物の生地や色を選ぶ役目は桃井に任せることにして、高尾は緑間と共にお茶を啜っていた。
この緑間というのは、高尾の友人であり呉服商であり、陰陽師である。あるとき施した術が失敗して己に返り、死ぬことができずに何百年と生きている哀れな人でもあった。

「いつまで黄瀬と暮らすつもりだ」

湯のみを置き、高尾の方に向き直った緑間が口を開く。

「涼ちゃんが出て行きたいって言うまでは、一緒にいるつもりだけど」

高尾は膝の上に置いた湯のみを、ゆったりと握り締めた。
出会った頃の、綺麗な顔を傷だらけにした黄瀬の姿が、脳裏に浮かんでは消える。

「あれは人間だ。そして、まだ子供なのだよ。これから背も伸びるし、年も取る。お前や、俺とは違う生き物だ」

「真ちゃん、」

「今は綺麗な外見も、年を経るにつれてそうではなくなっていくのだよ。お前が瞬くほどの僅かな間に、人間は老いて死ぬ。人は、人と共に生きたほうが幸せだ、お互いの為にもな」

緑間の言いたいことは痛いほどによく分かる。
だけど、それでも、高尾は黄瀬を傍に置いておきたかった。黄瀬が出て行くと言い出すまでは、一緒に暮らしていたいのだ。
黄瀬の見た目は、高尾が大好きな黄金の髪と鼈甲の瞳は、この時代の人間にとっては化け物と変わりなく感じられるようだ。そんな黄瀬を人間たちの中に放り出すことなど、高尾には到底出来るはずもなかった。
黄瀬が望むのならば、その生を全うするまでは高尾が面倒を見てやろうと決めたのはいつだったか。黄瀬と暮らし始めてから、月が一度満ちて欠けた頃だったように思う。

「……それでも、黄瀬と暮らすのか」

どこか憐れむような緑間の視線に、高尾はにっこりと笑って頷いたのだった。







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