濁った黄金色


(どうして俺を置いて行ったの)

獣道さえ無い山の中を必死で駆けながら、今はもういない両親に問いかける。ただでさえ痣だらけだった体には、生い茂る木の枝や草の棘によって新たな傷が次々と出来ては血が滲んだ。


黄瀬はとても目立つ子供だった。黄金色の髪はお天道様の光を反射しては眩いほどに輝いて、家々の藁色と田の緑しか無かった村の中で一際目を引いた。
それにも関わらず、黄瀬が苛められることもなく12の年を迎えることが出来たのは、ひとえに両親が村人から一目置かれていたからに他ならない。
少しばかり薬師としての知識があった両親は、医者にかかる余裕のない村の病人たちに薬を調合してやっていた。だから、黄瀬の見た目が異端でも、蔭口は叩けども誰も危害は加えてこなかったのだ。そう、今までは。
薬草を取ってくるよ、と言ったまま、両親は帰ってくることはなかった。薬草の入った背負い籠だけが、崖の横に残っていたらしい。暗く深い崖の下へと落ちたのではないか、というのが皆の見解だった。


両親がいないと分かった途端、村人の黄瀬への態度は一転してひどいものになった。
勝手に家の中に踏み入られ、少しでも金目の有りそうな物は全て奪われた。母親が嫁入りのときに着たという一等綺麗な着物だけは持って行かれまいと抵抗したけれど、子供の黄瀬より何倍も力のある大人に殴られ蹴られれば、着物を掴んでいた手はあまりにもあっけなく離れてしまった。
床に倒れた黄瀬に、村人たちは鬼の子だ何だと叫びながら暴力を振るう。目に眩しかった金髪は踏まれて汚れ、上等な鼈甲の瞳は涙と額から流れた血で覆われていく。
嫌だ、と思った。何でこんな目に、とも思った。
力を振り絞って蹴り上げた足に相手が一瞬怯んだ隙に、いくつもの手を掻い潜って逃げ出した。


細い足を目一杯動かして、できるだけ村から遠ざかるように駆けて山へと入りこむ。絡まった蔦が行く手を遮っても、木の根に躓いて転んでも、黄瀬は懸命に走った。
その山は、化け物が出るから入ってはいけないと両親に散々言われていたところだったけれど、それを思い出しても黄瀬は走るのを止めなかった。
化け物でも何でも、きっと村人たちよりも恐ろしいものは無いと、ただそれだけを思った。







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